俺の武器は……
俺は、ゆっくりと目を閉じた。
長い長い入院生活だった。
「生まれ変わったら、強い体に産んであげるからね」
幼い頃から病弱だった俺に、母がかけてくれた言葉だ。
そんな悲しい顔をしないで欲しい、俺はすごく幸せだったんだから。
だから、安心して。
俺は、家族みんなを見守って……。
・
・
・
ーーって、見守れるかぁ!!!
何だ、ここ?
頭が追いつかない。
「危ない!!」
「どうも」
「どうもじゃないわよ。さっきも転んだでしょ!一人で頑張ってよ」
何だ、この子。
めちゃくちゃ可愛い。
何だっけ?
あーー、そうそう。
昔、飼っていたスコティッシュホールドみたいなミミをつけてるから可愛いんだ。
「何してるんだよ!早く、戦えよ」
そうだった、そうだった。
さっきから、何かよくわからない7つぐらい顔がある蛇の化け物みたいなやつにみんなは立ち向かっている。
ーーって、俺は死んだよな?
ってことは、これは走馬灯?
えっ?
つまり、ゲームの世界ってこと?
バシッ……。
「だから、戦えって言ってるだろう」
蛇の化け物の大きなしっぽが頬を掠める。
痛い……。
何で?
でも、痛いってことは……。
これって!?
もしかして!?
「無理……無理……無理」
「戦えよーー」
三人は必死で戦っている。
剣に弓に、さっきのあの女の子は魔法使いみたいだ。
いやいや、死ぬ。
こんなの死ぬに決まってるじゃん。
「さっさと武器を出せ、戦え」
「一人でもかけたら、戦いに行けないのよ。これは、最終試験なんだから」
「いやいや、行かないです。行かなくていいです。平和でいいです」
シュンシュンと弓を飛ばしながら、戦っている男が俺を睨み付ける。
最終試験って何だよ!
普通でいい。
普通でいいから。
「平和の世界を作るために魔物を倒そうって約束しただろ!忘れたのか、エンラート」
「へっ?」
誰、それ?
平和な世界を作る?
平和ってもともと、なってるもんじゃないの?
何もしなくても、もともと作られてるもんじゃないの?
「早く武器を出せ」
剣で激しく戦っている男が叫ぶ。
平和って……。
そうだ、もともとじゃない。
俺のじいちゃん達世代が戦争に行って平和を作ってくれた。
だから、じいちゃんはよく言っていた。
「未来のためにわしらは命を捧げたんじゃ。だから、仲間にも見せてあげたかった。こんな世の中を……」
あの時のじいちゃんは、嬉しさと悲しさが混じった声をしていた。
ここにいる人達も、平和な未来のために命を捧げようとしているんだ。
じゃあ、俺は?
俺に何ができる?
だって、今の俺は別人だ。
病院で入院してた俺じゃない。
彼らと約束したのなら戦わなくちゃいけない!
怖いけど。
戦おう!
俺も、みんなと一緒に……。
腰に刺さっている剣を持って、引っこ抜く。
…………。
「えっ?あっーー。無理、無理。やっぱ無理」
その剣の長さは、僅か二十センチ。
先端は、鋭く尖ってもいない。
「何だ、それは?」
「剣はどうした?落としたのか?」
「早く武器を出さないとやられちゃうわよ」
俺の武器を見て、みんなが戸惑っているのが伝わる。
そんな不安そうな顔されても、武器なんて他に見当たらないし。
調べたって、俺はこれ以外に持っていないんだよ。
この黒くてツルッとしてるもの以外。
俺は、武器をクルクルと回し気づいた。
ーーこ、これは……。
病室で見ていたBlu-rayプレーヤーの……。
「Blu-rayプレーヤーのリモコンだぁーー」
リモコンだぁーーと俺の声がこだまする。
「な、何?リモコン」
「それは何だ?」
「いいから何とかして、頑張ってよ」
だから、無理なんだよ。
こんなので、戦えないんだよ。
無理……むり……ムリ。
『危ない』
蛇の化け物の頭が俺に向かってやってくる。
離れている三人に、俺を助けるのは無理だ。
まじかよ!
死ぬのか?
こんなのに殺されたくない。
どうすんだよ。
どうしたらいいんだよ。
とりあえず、俺はリモコンを蛇の化け物に向かって押しまくる。
ーーえっ?
化け物の動きがスローモーションになる。
何だ、これ?
化け物は、一コマ一コマ動いている。
そうか!!
これは、コマ送りだ。
「何だ、これは?どうなってるんだ?」
「これなら、動きが読めるわ」
「すぐに助けに行くぞ!エンラート」
化け物の動きがゆっくりに変わっているが、周りの動きは普通だ。
もしかして?
これって?
俺は、早送りボタンを弓の男に向けて押す。
「……エンラート!!ヒャヒャフルラララ」
何を喋っているのかまったくわからない。
けれど、頑張って戦ってくれている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
彼が俺の隣に来た瞬間に再生ボタンを押すと動きが元に戻った。
かなりの早さに、どうやら息がかなりあがったようだ。
でも、これって。
もしかして?
化け物に向かって、再生ボタンを押すと動きが一瞬で元に戻った。
やっぱり、そうだ!
俺は、もう一度再生ボタンを押す。
「止まった?」
そうこれは、一時停止ボタンだ。
「エンラート!!ありがとう。勝てるよ」
動きの止まった化け物を三人は倒した。
何だか可哀想な気もするが。
勝つためには、仕方ないことだ。
俺が再生ボタンを押すと化け物は、その場に倒れた。
戦いが終わり三人が俺に近づいてくる。
「さっきのは何だったのだ?急に体が速くなった。だが、動きが速すぎて疲れてしまった」
「それは、早送りだよ」
「早送り?待て、それは何だ」
「見たことないわね」
三人は、俺の手の中にあるリモコンに興味を示している。
三人に、リモコンを説明したところでわかるわけがない。
じゃあ、どうする?
何て話す?
いや、いいか。
話すのもめんどくさい。
「こ、これは最新の魔法なんだよ」
「まさか!エンラートが魔法使いになったのか?」
「えっ、まぁ」
「魔法学校をクビになったのに、よく入り直せたわね」
「く、クビ?」
「覚えてないのか?校長の髪の毛を魔法で消したんだ」
「えっ?何で?」
三人は首を傾げながら笑う。
どうやら俺は、魔法使いを目指していてクビになったようだ。




