さいはての、NIPPON。後編⑥
二人の会話は、部活が終わっても連綿と止まなかった。
美織は、実直に聞いた。
『綾は、慎一のこと好きなの。』
足を組んだと思えば、豹変して断言した。
『好きではないわ。陰気臭い。』
美織には判然とせず疑問だけが残った。
『なんで。』
鼻高々に返事をした。
『あなたがあまりにも好きそうな顔をしていたから。』
美織は、感涙に咽び下を向いた。
『うう。ううう。私から何を奪い取りたいの。なんで。』
綾は理知的に続けた。
『誰かの保証がついてる男は、信頼できるわ。私は見えるものしか信用できないの。』
美織は、鋭く睨んだ。
『今回の盗難事件、犯人は慎一ではなくて、あなた綾ね。』
綾は、目の前の女に対して悦に入っていたが、射る様な視線を、この時初めて返した。
『そうだよ。そうだよ。監督に見つかった時も一回ね。したら黙ってくれたわ。すごいわね。なんでもできる。』
パチン。
美織は、綾の頬を張って、ひと言放った。
『あなた最低よ。』
綾は、引けを取らなかった。
『現実よ。』
それからこの二人は、大事件当日まで言葉を交わすことはなかった。
大谷 慎一。先日、15年やってきたサッカーを辞めた。
放課後暇だし、ゲーセンで時間を潰すかと行き込んだ矢先コインゲームは振るわなかった。
『今日は、調子が悪い。ミスが多い。なぜかわからないが、ミスが多い。
ゲームセンターから他行する憔悴した姿は以前の影なはなかったが、知らない女がいた。
『あなたは今、疲れているわね。少しを抑えることもできない。体を任せ。時を追い越し。確かに今を持っていっているわ。あの女はダメだわ。生気を吸う。』
今日は綾と映画に連れ立つ。
横の人のポップコーンが、バター醤油。むせ返すような臭いが鼻を突き、現実と幻想が判然とする感覚の中、綾が映画進行中に、手を繋いできた。
学業成績は落ちるし。部活にもいけなくなった。だが、横に綾がいる。重鈍な体、頭が重い、体が重い、瞼が重い。現実が鈍る感覚が綾への慕情へと変化していくのを痛いほどわかった。
いつもと違和感がある。今日はもう帰ろう。映画館を後にしてカフェで時間をつぶした。
脈絡なく、綾は白々しくも聞いてきた。
『どうして、私のこと庇ってくれたの?』
慎一は、動転した。
『ハハ、今更なんだよ。俺もわからないよ。ただ名乗り上げてた。あの女歌手のせいだ。じゃあ、なんで金なんか盗むんだよ。』
綾は、弱々しい声を震わせて答えた。
『わからない。』
飲みかけたコーヒーをやめて、店内に流れていたNIPPONが消えた。慎一は希望を見た。
『綾には俺がいないといけない。日本のさいはてに綾がいました。』
綾の手を強く握った。
夢の中で、元太と会った。
『なんで、金なんか取ったんだよ』
『わからない』
『なんで、金なんか取ったんだよ』
『わからない』
『あほ。』
そう言い飛ばした元太の目は、怒髪天を吐くほど充血していた。
自室で目が覚めた慎一は心底思った。本当に疲れた。
『俺の名前は慎一。一本に慎む。嘘はつかないがモットーだ。俺の名前は、父さんがつけてくれた。悲しむよな。
はあ。本当のこと、やっぱり言おう。』
ため息を深くついた矢先、綾から電話がかかってきた。
『明日校舎の屋上で、ご飯食べよ。』




