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「地味子に彼氏は似合わない」と笑って私の彼氏を奪った女、同窓会で有名インフルエンサーの私に気づかず「昔チョロい子がいてさ〜」と本人の前で語り出した

私、高瀬美羽、23歳。職業はインフルエンサー。


ネットでは「Miu」という名前で活動している。


YouTube「Miu channel」登録者80万人、Instagram「miu_beauty」フォロワー120万人、TikTokは150万人。


美容系からライフスタイルまで幅広くやってて、最近は大手化粧品メーカーやアパレルブランドの案件もいただいている。


先月は雑誌の表紙にもなった。来月は地上波の番組にも出る予定。


……なんて言うと、さぞかしキラキラした学生時代を送ってたんだろうと思われるかもしれない。


全然違う。


高校時代の私は、クラスで一番地味な存在だった。


黒髪をひとつに結んで、眼鏡をかけて、制服のスカートは膝下丈。化粧なんてしたことない。友達も少ない。教室の隅で本を読んでるタイプ。


あだ名は「地味子」。


しかも私、めちゃくちゃ断れない性格だった。


「ねえ美羽、そのシャーペン可愛い。交換しよ?」


クラスの中心グループにいた藤堂エリカにそう言われて、差し出されたのは100均のシャーペン。


私のは父が海外出張のお土産に買ってきてくれた、ちょっといいやつだった。


でも、断れなかった。


「う、うん……いいよ」


「やったー!ありがと!」


エリカは私のシャーペンを持って、さっさと自分のグループに戻っていった。


こんなことは日常茶飯事だった。


「ねえ、そのお菓子美味しそう。ちょうだい?はい、これあげる」


私が持ってきたデパ地下のクッキーが、コンビニのチョコ1個と交換される。


「その限定グッズ、ちょっと見せて?……やっぱり私が持ってたほうが似合うよね。ね?」


朝から並んで買ったグッズが、そのまま返ってこなかった。


「傘貸して。明日返すから」


返ってきたことはない。「なくした」で終わり。


「ノート貸して。コピーしたいから」


戻ってきたノートは、ページが折れてコーヒーのシミがついていた。


文句を言おうとしても、エリカの周りにはいつも取り巻きがいる。


「え、何?そのくらいよくない?」


「美羽って細かいこと気にするよね〜」


「だから友達できないんじゃない?」


私は何も言い返せなかった。


そして、エリカたちが私のいないところで何を言っていたかも、知っていた。


「美羽ってほんとチョロいよね」


「お人好しっていうか、バカなんじゃない?」


「でも便利じゃん。何でもくれるし」


「ほんとそれ。地味子は利用するに限るわ〜」


聞こえないふりをした。


聞こえないふりをするしかなかった。


高校2年の時、私に彼氏ができた。


隣のクラスの佐々木くん。図書委員で一緒になって、話すようになって、気づいたら付き合っていた。


私にとって初めての彼氏だった。


嬉しかった。地味な私でも、こんな幸せがあるんだって思った。


でも、それを知ったエリカの目が光った。


「え、美羽に彼氏?佐々木くんって結構カッコいいじゃん」


「う、うん……」


「ふーん」


それから1ヶ月後。


佐々木くんは、エリカと付き合い始めた。


「ごめん、高瀬さん。俺、藤堂さんのことが好きになった」


頭が真っ白になった。


放課後、エリカが私のところにやってきた。


「ごめんね美羽。でもしょうがないよね。だって私のほうが絶対似合うもん」


エリカは私のシャーペンを奪った時と同じ笑顔で言った。


「地味子に彼氏なんて、やっぱ似合わないって。身の程わきまえなよ」


私は何も言い返せなかった。


その日から、教室に行くのが怖くなった。


「佐々木くん、元カノ地味子なんでしょ?黒歴史じゃん」


「あれと付き合ってたとか、見る目なさすぎ〜」


「エリカに乗り換えて正解だよ。格が違うもん」


毎日そんな声が聞こえた。


私は逃げるように卒業した。大学は地元を離れて、東京に出た。


もう関わりたくなかった。全部忘れたかった。



大学に入って、私は変わった。


というより、変わらざるを得なかった。


東京は刺激的だった。お洒落な人がたくさんいた。高校時代の「地味子」のままじゃ、息ができなかった。


眼鏡をコンタクトに変えた。髪を巻いてみた。化粧を覚えた。服を選ぶようになった。


すると、周りの反応が変わった。


「美羽ちゃんって、めっちゃ美人だよね」


「え……?」


「なんで気づいてなかったの?顔立ち整いすぎでしょ」


自分では分からなかった。でも、鏡を見る時間が増えた。


大学2年の時、友達に「顔面偏差値高いんだから発信したら?」と言われて、なんとなくInstagramを始めた。


最初はただの自撮りだった。


でも、フォロワーが増えていった。


「可愛い!」「メイク教えてほしい」「どこの服ですか?」


コメントがつくのが嬉しかった。


調子に乗ってYouTubeも始めた。メイク動画、購入品紹介、ルーティン。


バズった。


登録者が1万人を超えた時は信じられなかった。10万人を超えた時は泣いた。


大学を卒業する頃には、これが仕事になっていた。


事務所に所属して、企業案件をもらうようになった。


テレビにも呼ばれるようになった。雑誌にも出るようになった。


実家が会社を経営していることは、ずっと隠していた。高校時代も、今も。


「親の金でしょ」って言われるのが嫌だったから。


でも実際、私の稼ぎは実家とは関係ない。自分で積み上げてきたものだ。


今は都内のタワマンに住んでいる。自分のお金で。


彼氏もいる。IT企業の経営者で、私のことを「昔から応援してた」って言ってくれる優しい人。


23歳。私は、たぶん幸せだ。



そんな時、同窓会の案内が届いた。


『高校卒業5周年記念同窓会のお知らせ』


一瞬、ゴミ箱に捨てようかと思った。


あの頃の記憶は、今でも苦い。


でも、彼氏に相談したら「行ってきたら?」と言われた。


「過去を清算するチャンスかもよ」


「清算……」


「美羽は何も悪いことしてないでしょ。堂々と行ってきなよ」


……そうかもしれない。


私は同窓会に出席することにした。



当日。


私は少し迷った末に、サングラスと帽子を被っていくことにした。


最近、街で気づかれることが増えた。同窓会でいきなり騒ぎになるのは避けたかった。


服は、シンプルなワンピースにした。落ち着いたネイビー。


バッグは小ぶりで上品なやつ。


首元にはスカーフをさりげなく巻いた。


全部ロゴなんて主張していない。でも、分かる人には分かる。


これが私のスタイルだ。


会場は地元のホテルの宴会場だった。


受付で名前を告げる。


「高瀬です」


「高瀬……美羽様ですね。あの、失礼ですが、サングラスと帽子は……」


「あ、中で外しますね」


受付の人は多分同級生だろう。怪訝そうな顔をしていたけど、それ以上は何も言わなかった。


会場に入る。


ざわざわとした喧騒。見覚えのある顔、ない顔。


5年も経つと、みんな変わっている。


私は隅のほうに立って、様子を見ていた。


すると、すぐに視線を感じた。


「ねえ、あの人誰?」


「さあ……関係者?」


「サングラスとか怪しくない?」


ひそひそ声が聞こえる。


まあ、そうなるよね。


その時、聞き覚えのある声が近づいてきた。


「ちょっと、あんた誰?」


振り返ると、藤堂エリカがいた。


5年ぶりのエリカは……すごかった。


悪い意味で。


まず目に飛び込んできたのが、全身のブランドロゴ。


GUCCIのロゴがドーンとプリントされたTシャツ。でも、よく見るとロゴの形が微妙におかしい。「G」の向きが逆だし、フォントも何か違う。


バッグはルイ・ヴィトンのモノグラム。でも、縫製がガタガタで、パターンの位置もズレてる。金具の色も安っぽいゴールド。


耳には、CHANELのでっかいロゴピアス。これも「C」の重なり方がおかしい。


ベルトはDior。バックルの「D」が左右非対称。


靴はなぜかPRADAのロゴがでかでかと入ったスニーカー。


首にはFENDIのロゴが連なったスカーフを巻いて、手首にはBVLGARIっぽい時計。


……何個ブランド着けてるの。


しかも全部、微妙に偽物っぽい。


そして香水がキツい。3メートル手前から匂う。むせそう。


「ブランド=偉い」と思ってる人の典型だった。


エリカは腰に手を当てて、私を見下すように言った。


「ここ、同窓会なんだけど。部外者は出てってくれない?」


5年経っても、この態度は変わらないんだな。


「私、部外者じゃないよ」


「は?じゃあ誰よ。名乗りなさいよ」


「後でね」


「はあ?何その態度」


エリカは私を睨みつけた。


「ていうかさ、あんた」


エリカの目が、私の服を上から下まで舐め回すように見た。


「その服、何?」


「え?」


「地味すぎない?無地のワンピースとか、おばさんかよ」


「……そう?」


「同窓会なんだから、もっと気合い入れてきなよ。恥ずかしくないの?」


エリカは自分の服を見せびらかすように、髪をかき上げた。


「私を見なさいよ。GUCCI、ヴィトン、CHANEL、Dior、PRADA、FENDI、BVLGARI。全身ハイブランドで決めてきたんだから」


自分で全部言うんだ……。


「このバッグ、40万したんだよ?このピアスは15万。ベルトは8万。時計は50万」


いや、その値段だったら本物じゃないでしょ。


「あんたもさ、もうちょっとブランドとか着たほうがいいよ?そんな地味な服じゃ、誰にも相手にされないって」


「そうかな」


「そうだよ。私みたいにセンス磨かないと」


……センス。


私は何も言わなかった。


エリカは満足そうに頷いて、会場の中央に戻っていった。


相変わらずだな、この人。


私は隅っこでドリンクを取りながら、様子を見ていた。


エリカは会場の中心で、取り巻きに囲まれていた。


「みんな久しぶり〜!私に会いたかったでしょ?」


相変わらず女王様気取り。


「ねえねえ、私の服どう?全部ブランドなんだよ?」


「へー、すごいね」


「でしょ?このバッグなんて、入手困難で3ヶ月待ちだったんだから」


入手困難なヴィトンなんてあったっけ。しかもその縫製、明らかに……。


周りは「へー」「すごーい」と言ってるけど、目が笑ってない。社交辞令だって分かる。


「ねえ聞いて、私今インフルエンサーやってるの!」


エリカはスマホを取り出した。


「ほら、これ私のInstagram!『erika_luxury_life』っていうの。お洒落な私の日常を発信してるの」


画面を覗き込んでみると、加工しまくりの自撮りが並んでいた。


顔が原形留めてない。目が宇宙人みたいにデカいし、顎が消失してる。肌はのっぺりとしたマネキンみたい。


「フォロワー、3000人いるんだよ?すごくない?」


「おお〜」


「もうすぐ1万人行くと思う。私、インフルエンサーの才能あるみたいで〜」


3000人で才能って……。


「案件もいっぱい来るの!この前なんて、大手の化粧品会社から依頼来たんだよ?」


エリカはスマホをスワイプして、投稿を見せた。


「ほら、これ!」


見ると、明らかに怪しいパッケージのサプリメントだった。


「飲むだけで-10kg!奇跡のダイエットサプリ!」


……大手?


「あとこれも!」


次の投稿は、さらに怪しかった。


「塗るだけでシミが消える!韓国発の最新美容液!」


聞いたこともないメーカーだった。


「私が紹介するとめっちゃ売れるんだよね〜。だから企業からひっぱりだこなの」


周りは引きつった笑顔で頷いている。


「あ、そうだ!YouTube も見て!『エリカの勝ち組ライフ』っていうチャンネルやってるの」


エリカはYouTubeを開いた。


「ほら、登録者500人超えたの!」


「へー」


「もうすぐ収益化できるんだよね。1000人まであとちょっと!」


あと500人を「あとちょっと」とは言わないと思う。


「私の動画、再生回数もすごいんだよ?この前の動画なんて、200回再生されたの!」


200回……。


「バズったよね〜。コメントも3件も来たし」


「そうなんだ〜」


周りの反応が、どんどん薄くなっていく。


でもエリカは気づいていない。


「私、将来は有名インフルエンサーになってテレビとか出たいんだよね〜。才能あるって自分でも思うし」


「うんうん」


「やっぱり顔がいいと得するっていうか〜。生まれつき持ってるものが違うっていうか〜」


一人の女子が、そっとスマホで何かを検索し始めた。


「てかさ、私くらいになると、街歩いてるだけで声かけられるんだよね。『インフルエンサーの方ですか?』って」


それ、勧誘では。


「この前なんて、スカウトされそうになったの!『モデルに興味ありませんか?』って」


それ、確実に怪しい勧誘。


「やっぱ私って、オーラが違うんだろうね〜」


その時、さっきスマホを見ていた女子が、隣の子に何かを見せた。


「ねえ、ちょっと……」


「何?」


「さっきから気になってたんだけど、サングラスの人……」


二人の視線が、私に向いた。


「なんか見たことある気がする……」


「え、誰?」


「ちょっと待って、調べてる……」


女子がスマホをスクロールする。


「あ」


「どうした?」


「これ、見て」


スマホの画面を見せ合っている。


「え、うそ……」


「マジで……?」


「でも、似てない……?」


二人の顔色が変わった。


「ちょ、ちょっと待って、あの人って……」


「Miuじゃない……?」


その声が聞こえた途端、周囲がざわついた。


「え、Miu?」


「インフルエンサーの?」


「Miu channelのMiu?」


「フォロワー100万人の?」


声がどんどん大きくなる。


「嘘でしょ……本物……?」


「この前、雑誌の表紙になってた……」


「来月テレビ出るって……」


「私ファンなんだけど!」


人がどんどん集まってくる。


「ねえ、サングラス取ってほしい!」


「本物か確認したい!」


「お願い!」


私は少し迷ったけど、まあいいか、と思った。


「分かった」


サングラスを外す。帽子も取る。


「うわあああ!」


「本物だ!」


「Miuだ!」


「めっちゃ可愛い……」


「美人すぎる……」


「生で見ると全然違う……」


悲鳴に近い歓声が上がった。


「握手してください!」


「写真撮っていいですか!」


「サインください!」


わらわらと人が集まってくる。


「え、でも待って」


一人の男子が首を傾げた。


「Miuがここにいるってことは……同級生ってこと?」


「あ、確かに……同窓会だもんね」


「誰だろ……?」


みんな顔を見合わせている。


「うちの学年にこんな美人いたっけ……?」


「いや、絶対覚えてるはずだよ。このレベルなら」


「思い出せない……」


「名前なんだっけ……?」


私は答えなかった。別に隠すつもりはないけど、自分から名乗るのもなんだか違う気がした。


騒ぎを聞きつけて、一人の男が駆け寄ってきた。


佐々木くんだった。


5年ぶりに見る元カレは、なんだかくたびれていた。


髪はボサボサ、服もヨレヨレ。高校時代の爽やかさはどこにもない。


でも、今は目をギラギラさせて私に近づいてくる。


「え、マジっすか!Miuさんですよね!?俺、めっちゃファンなんです!」


「あ、どうも……」


「動画全部見てます!いつも応援してます!」


「ありがとうございます」


「握手してもらっていいですか!」


佐々木くんは興奮した様子で私の手を握ってきた。手汗が凄かった。


「いや〜、まさかMiuさんに会えるなんて!俺、すげえラッキー!」


「はあ……」


手を拭きたかった。


「てか、Miuさんって俺らの同級生だったんすか?」


「まあ、そうですね」


「マジかよ……誰だろ……全然思い出せねえ……」


佐々木くんは首を捻った。


「でも、こんな美人いたら絶対覚えてるはずなんだけどな〜」


……そうですか。


「あ、そうだ!俺も最近、動画始めたんすよ!」


「へえ」


「良かったらコラボしません?Miuさんとコラボできたら、俺の登録者爆上がりすると思うんすよね」


「はあ……」


「俺、昔からセンスある女性が好きなんすよね〜。Miuさんみたいな人、マジでタイプっす」


……この人、本当に変わらないな。


騒ぎを聞きつけて、エリカも来た。


さっきまで「部外者出てけ」と言っていた顔が、今は満面の笑みになっている。


「何々?何の騒ぎ?」


「エリカ、この人Miuだって!」


「Miu?誰それ」


「知らないの?インフルエンサーのMiuだよ!フォロワー100万人超えてて、来月テレビ出るんだよ!」


エリカの目の色が変わった。


「100万人……?」


「YouTubeも80万人いるし、雑誌の表紙にもなってるし、超有名人なんだよ!」


エリカは一瞬、顔を引きつらせた。


でもすぐに、営業スマイルを作った。


「え〜!すごーい!私、知ってた知ってた!Miuさんでしょ?」


絶対知らなかったでしょ。


「私もインフルエンサーやってるの!ね、仲良くしよ?」


さっきまでの態度はどこへ行ったのか、急にすり寄ってくる。


「フォローし合わない?私のアカウント、『erika_luxury_life』っていうの!」


「はあ……」


「私ね、フォロワー3000人いるんだよ?案件もいっぱい来るし、結構すごいんだから!」


……さっき「地味な服」ってバカにしてたよね?


「ねえねえ、一緒に写真撮ろうよ!私のインスタに載せていい?」


エリカがスマホを構えようとした。


「てかさ、Miuさんって私らの同級生なんでしょ?誰なの?」


「……」


「ねえ、名前教えてよ」


私は答えなかった。


「なんで黙ってるの?まあいいけど」


エリカは肩をすくめた。


「てかさ、私インフルエンサー歴長いから、色々教えてあげよっか?」


「はい?」


「Miuさん、最近伸びたんでしょ?私、もう2年やってるから。先輩として、アドバイスしてあげる」


……2年やって3000人って、むしろ才能ないのでは。


「伸びるコツとか、教えてあげるよ?フォロワー増やす方法とか」


「あ、大丈夫です」


「遠慮しないで〜。同じインフルエンサーとして、助け合おうよ」


エリカは私の腕を掴んできた。


「あ、そうだ!私のこと、Miuさんのアカウントで紹介してくれない?」


「え?」


「『私の友達のエリカちゃん!フォローしてね!』みたいな感じで!」


「いや、それは……」


「お願い!そしたら私もMiuさんのこと紹介するから!Win-Winでしょ?」


Win-Winって言葉の意味、分かってます?


「ね、いいでしょ?友達じゃん、私たち」


友達だったことは一度もない。


「てかさ、Miuさんって、うちの学校の誰なの?マジで分かんないんだけど」


エリカは首を傾げた。


「こんな美人いたっけ?記憶にないんだよね〜」


周りも頷いている。


「私も分からない……」


「誰だろう……?」


「目立つ子だったら覚えてるはずだよね……」


エリカが思い出したように言った。


「あ、分かった!もしかして、転校生とかだった?」


「いや、違うけど」


「えー、じゃあ誰よ〜」


エリカはつまらなそうに髪をいじった。


「まあいいや。てかさ、私が高校の時の話してあげよっか?」


「……どうぞ」


「私ね、高校の頃からモテモテだったの。男子からめっちゃ告白されて〜」


出た、自分語り。


「クラスの中心だったし、みんな私に憧れてたんだよね〜」


「へえ」


「ていうかさ、あの頃って、いたよね。地味子って子」


私の心臓が、一瞬跳ねた。


「地味子?」


「そう、地味子。黒髪メガネで、いっつも教室の隅にいるような子」


周りが「ああ、いたいた」と頷いている。


「あの子さ、マジでチョロかったんだよね〜」


「チョロい?」


「そう。何でもくれるの」


エリカは笑いながら続けた。


「ペン欲しいって言ったらくれるし、お菓子欲しいって言ったらくれるし。超便利だったんだよね〜」


「……へえ」


「グッズとかもさ、『見せて』って言ったら、そのままもらえるの。返さなくても何も言わないし。マジでチョロいっていうか、バカ?」


周りの空気が、少し変わった気がした。


「あと傘とかも。『貸して』って言って、『なくした』って言えば終わりだし。ノートも借りて、汚して返しても文句言わないの」


エリカは得意げに続ける。


「地味子って、ほんと便利だったわ〜。利用するのにちょうどいいっていうか」


私は黙って聞いていた。


「ていうかさ、あの子、彼氏できたことあったんだよね。そこの佐々木と付き合ってたの」


佐々木くんがビクッとした。


「え、あ、いや、それは……」


「でもすぐ別れたんだよね〜。だって、私のほうが似合うもん」


エリカは笑った。


「地味子に彼氏なんて、似合わないって。身の程わきまえなよって感じ」


会場が、静まり返った。


「ていうかさ、あの子、高校卒業してから見ないよね。今何してるんだろ」


エリカは首を傾げた。


「まあ、どうでもいいけど。きっと地味〜に生きてるんじゃない?あの性格じゃ、どこ行っても同じでしょ」


私は、静かに口を開いた。


「そのシャーペンだけど」


「え?」


「お父さんが海外で買ってきてくれたやつ。まだ持ってる?」


エリカの顔が、凍りついた。


「……は?」


「交換しよって言われて、100均のと交換させられたんだよね」


「え、ちょっと、なんで……」


「お菓子も。デパ地下のクッキーが、コンビニのチョコになった」


「……」


「グッズは、朝から並んで買ったやつ。傘は、お気に入りだったのに『なくした』で終わり。ノートは、コーヒーのシミがついて返ってきた」


私はエリカの目を真っ直ぐ見た。


「全部覚えてるよ」


エリカの顔から、血の気が引いていく。


「久しぶり、藤堂さん」


私はにっこり笑った。


「私だよ。地味子」


時間が、止まった。


会場全体が、シーンと静まり返った。


「え……」


エリカの目が見開かれる。


「み、美羽……?」


「そうだよ」


「嘘……でしょ……」


周囲がざわつく。


「え、高瀬さんって……」


「あの地味だった……?」


「嘘でしょ……全然別人じゃん……」


「てか、めっちゃ美人になってる……」


「高瀬さんがMiuだったの……?」


隣で佐々木くんも固まっていた。


「え……高瀬……?お前が……Miu……?」


「そうだよ」


私は元カレに向き直った。


「さっき、『センスある女性が好き』って言ってたよね」


「あ、いや、それは……」


「『マジでタイプ』とも言ってたよね」


「……」


「でも5年前、私のこと振ったよね?」


佐々木くんの顔が真っ赤になった。


「そ、それは……」


「『藤堂さんのことが好きになった』って。覚えてる?」


「……っ」


「私のどこがタイプじゃなかったのかな」


佐々木くんは何も言えなかった。


「しかも今、私が誰か分からなかったよね」


「いや、それは、その……」


「『こんな美人いたら絶対覚えてる』って言ってたのに。覚えてなかったね」


「……」


「まあ、『地味子』のことは覚えてる価値もなかったんだろうね」


佐々木くんの顔が、羞恥で歪んだ。


エリカが叫んだ。


「なんでよ!なんであんたが!」


「なんで……?」


「私のほうが絶対売れるって思ってたのに!私のほうが可愛いのに!なんで地味子のあんたが100万人で、私が3000人なのよ!」


私は黙ってエリカを見た。


「おかしいじゃない!私のほうが上なのに!昔から私のほうが上だったのに!」


エリカは叫び続けた。


「あなたのもの、全部私が取ったのよ!私が勝ったのよ!」


会場が静まり返った。


「え、エリカ、今の……」


「自分で言っちゃったよ……」


「勝ったって……」


「サイテー……」


ざわざわと、空気が変わった。


「てか、さっきも言ってたよね……」


「『チョロかった』『利用してた』って……」


「本人の前で言ってたんだ……」


「最悪すぎる……」


周囲の視線が、冷たくなっていく。


「ち、違うの、これは……」


エリカは慌てて取り繕おうとした。


その時、別の女子が声を上げた。


「ねえ、あの人の服……」


「え、何?」


「あれ、エルメスじゃない……?」


「うそ、どれ?」


「ワンピースの形、絶対エルメスだよ。シルクだし」


「あのスカーフ、カレだよね……?」


「バッグ……ケリーじゃない……?」


「マジ……?」


「あの人の全身、たぶん500万くらいする……」


「車買えるじゃん……」


「てか、エリカの偽ブランドと並ぶと……」


「やめて、比べちゃダメ」


「差がエグい……」


「本物と偽物が並んでるの、公開処刑じゃん……」


その声が、エリカの耳にも入ったらしい。


「は?偽物?何言ってんの、私のは全部本物だから!」


エリカは声を荒げた。


「このバッグ、40万したんだよ?本物に決まってるじゃん!」


「いや、エリカ、そのヴィトンの縫製……」


「うるさい!本物だって言ってるでしょ!」


「GUCCIのロゴも向き逆だよ……」


「う、嘘……」


「CHANELのピアスも、Cの重なり方がおかしい……」


「そんな……」


エリカの顔が、恥辱で真っ赤になった。


「全部偽物じゃん……」


「しかもMiuは全身エルメス……」


「比べるのも失礼なレベル……」


「本物を見ると、偽物って分かっちゃうよね……」


エリカの目に、涙が浮かんだ。


怒りの涙か、悔しさの涙か、分からない。


「ちょっと、エリカ!」


佐々木くんが口を開いた。


「お前のせいだろうが!」


「は……?」


「お前が『別れろ』って言うから高瀬と別れたのに!今見ろよあいつ!めちゃくちゃ出世してんじゃねーか!」


「私のせい……?」


「あの時お前に乗り換えなきゃ、俺は今頃……」


「あんたが私を選んだんでしょ!?」


「お前が誘ったんだろうが!」


修羅場だった。


会場中の視線が二人に集まっている。


「あんたがしつこく迫ってきたんじゃない!」


「は?お前が『私のほうが似合う』とか言って誘惑してきたんだろ!」


「誘惑してない!あんたがその気になっただけじゃない!」


「うるせー!お前と付き合ったのが人生最大の失敗だ!」


「なっ……!あんたなんかこっちから願い下げよ!」


「もう別れる!こんな偽ブランド女と一緒にいられるか!」


「偽ブランドじゃない!」


「どう見ても偽物だろ!ロゴ逆だし!縫製ガタガタだし!」


「う、うるさい!」


「てかお前、インフルエンサーとか言ってたけど、3000人だろ?高瀬は100万人だぞ!?恥ずかしくねーのかよ!」


「う……」


「あんだけ偉そうにして、高瀬の足元にも及ばねーじゃん!」


「あんただって偉そうに言ってたくせに!動画始めたとか言って、登録者何人なのよ!」


「……」


「言ってみなさいよ!」


「……50人」


「は?」


「50人だよ!悪いか!」


「50人!?私より少ないじゃない!よくそれで高瀬さんにコラボ申し込んだわね!」


「お前だって紹介してくれとか言ってただろ!」


「あんたに言われたくないわよ!」


泥仕合だった。


周囲は完全に引いている。


「うわ……」


「見てらんない……」


「どっちもどっちじゃん……」


「底辺同士の争いって感じ……」


「てか、高瀬さんの前でこれやる?」


「恥ずかしくないのかな……」


私は静かにその場を離れた。


見る必要はなかった。


「藤堂さん」


私は一度だけ振り返った。


「高校時代、私から色々持っていったよね」


「……」


「シャーペン。お菓子。グッズ。傘。ノート。彼氏」


「……っ」


「全部覚えてるよ。私、記憶力いいから」


エリカの顔が青ざめた。


「でも、もういいの」


「え……」


「私、今すごく幸せだから」


私は笑った。作り笑いじゃなく、本当に。


「藤堂さんが色々持っていってくれたおかげで、私は『物で繋がる関係』がいかに虚しいか学べたし。彼氏のことも、今となっては『見る目がない人と早めに別れられてよかった』って思ってる」


「……っ」


「だから、ありがとう」


エリカは何も言えなかった。


二人の叫び声を背中に聞きながら、私はドリンクを取りに行った。


「高瀬さん」


声をかけてきたのは、高校時代に数少ない友達だった加藤さんだ。


「久しぶり。元気だった?」


「うん。加藤さんも元気そうで良かった」


「てか、美羽、マジですごいことになってたんだね」


「まあ、色々あって」


「昔からあんなに可愛かったのに、なんでみんな気づかなかったんだろ」


「そうかな」


「そうだよ。あ、そうだ、藤堂さんと佐々木くんのあれ、大丈夫だった?」


「私は何もしてないし、勝手に自滅しただけだから」


「たしかに」


加藤さんは笑った。


「因果応報ってやつだね」


「かもね」



後日、同窓会に来ていた同級生からLINEが来た。


『あの後、藤堂と佐々木、大ゲンカして別れたらしいよ』


『佐々木、「お前と付き合ったのが人生最大の失敗」って言って出てったって』


『藤堂、泣きながら「私は悪くない」って叫んでたらしい』


『てか藤堂のブランド全部偽物だったの、みんなにバレてたよ笑』


『藤堂のインスタ見た?同窓会の後からコメント欄炎上してる笑』


『「偽ブランド女」「詐欺師」「痛い」ってコメントだらけ笑』


『フォロワーも減ってて、今2000人切ってるらしい笑』


『佐々木のYouTubeも見た?登録者30人まで減ってた笑』


『二人とも、もうこの地元にいられないんじゃない?笑』



私はスマホを閉じた。


ざまあみろ、とは思わなかった。


ただ、少しだけ思った。


ああ、私は間違っていなかったんだな、と。


翌週、彼氏と夜景の見えるレストランで食事をした。


「同窓会、どうだった?」


「うん、行ってよかったかな」


「何かあった?」


「昔、私から色々奪ってた人がいてね。その人が、ちょっと大変なことになってた」


「へえ。因果応報ってやつ?」


「かもね」


私はワインを傾けた。


高校時代、私は色んなものを奪われた。


シャーペン。お菓子。グッズ。傘。ノート。彼氏。自己肯定感。


でも、奪われたから気づけたこともある。


物や人に執着しなくていいこと。本当に大切なものは、奪われないこと。自分の価値は、自分で決めていいこと。


「ねえ」


「ん?」


「私、今すごく幸せ」


彼氏が笑った。


「知ってるよ」


「ありがと」


窓の外には、東京の夜景が広がっている。


あの頃、私を「地味子」と呼んで笑っていた人たちは、今どこで何をしているんだろう。


でも、正直どうでもいい。


私は今、自分の人生を生きている。


それだけで十分だ。


---


(完)


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


「地味子」と蔑まれていた美羽が、自分の努力で手に入れた「本物の幸せ」で、過去の搾取者たちを圧倒する姿を書きたくてこの物語を作りました。


エリカのような「偽物」のプライドに固執する人間が、自らの口で自分の悪行を暴露し、自爆していく展開には、執筆しながら私自身もスカッとしました。


もし「美羽、よくやった!」「スカッとした!」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると、執筆の大きな励みになります!


また、ブックマーク登録や感想などもいただけると泣いて喜びます。


皆様の日常に、少しでも爽快感をお届けできていれば幸いです。

また別の作品でお会いしましょう!


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