御伽ヒットマンズ
「おばあちゃんの所へワインとパンを届けてくれる?」
知らない女の、知らない声が、柔和な笑みを浮かべながら発された。少年も笑顔を浮かべ、女が差し出したカゴへ手を伸ばした。
「ついでにミルクとバターも買ってこようか?」
女は返事を返すことなく、微笑んだまま去っていった。
こうして今日の仕事が決まった。カゴの中を見てはいけない、それがルール。少年はただ、指定された場所へこれを届けるだけでいい。
道に迷うフリをしてキョロキョロと辺りを見回す。追手がいないことをさりげなく確認し、必要以上の寄り道を数回。毎回同じルートを辿って足がついた仲間の数は、10人を過ぎた辺りで数えるのをやめた。
煉瓦の建物が並ぶ小さな町を抜け、いよいよ森に足を踏み入れようとしたその時、人影が見えた。そこには赤い頭巾を被った、自分よりも小さな女の子が木陰で涼んでいた。
「おばあちゃんの所へワインとパンを届けてくれる?」
少年が無表情で赤い頭巾の少女に問う。
「ついでにミルクとバターも買ってこようか」
赤い頭巾の少女は早口でそう言うと、奪うような勢いでカゴを取った。
「持ち場はもっと奥だろ?勝手なことはやめてくれ」
「あんたらが嗅ぎつけられなきゃここにいないよ」
赤い頭巾の少女は聞こえるように舌打ちをし、森の奥へと進んでいった。迷うことなくカゴの中を漁り、特注の猟銃を手に取ると、静かに弾を込め始めた。
森の奥にひっそりと佇む小さな家屋。赤い頭巾の少女はトントン、トンと少しだけ間を空けて3回扉を叩いた。
「おばあちゃん?私だよ、赤ずきんだよ」
年相応の可愛らしさを装い、明るく、されど慎重に声をかけた。
「おばあちゃん、私ね、ワインとパンを持ってきたの」
「おおそうかい、ありがとねえ。早く入っておいで赤ずきん」
次の瞬間、“赤ずきん”と名乗った少女は扉を蹴り開け、ベッドに向かって弾丸を放った。弾が切れるまで家中を何度も撃ち尽くしたところ、異変に気付く。
誰もいない、そしてこめかみに冷たい鉄の感触が走り、背筋が凍りつくのを感じた。
「思い切りはヨシ、落ち着きは伸び代アリだねえ」
扉の裏に隠れていた老婆が、拳銃を赤ずきんに突きつけ、くつくつと笑った。
「……何これ、訓練だったの?」
赤ずきんが不貞腐れてそう言った。
「オオカミ退治はあんたの仕事じゃないだろう?ブツを運べたのはいいが、戦うのはダメさ」
老婆はカゴの中に入っていた銀の弾丸をまとめて掴み取った。
「さあ、“猟師”のみんながやってくる。若い奴らのケツを拭くのが老人の仕事さね」
赤ずきんたち若い衆は、初めから信用されていなかったらしい。渋々カゴを置いて森を去ると、自分にカゴを届けた少年のことを思い出した。
思えば、彼らがオオカミの奴らに襲撃されたからこそ、お礼参りに躍起になったのが事の発端だったが、その情報が本当かどうかも怪しい。
「あのオオカミ少年め……」
一言だけ毒づき、頬を叩いて気持ちを切り替える。
いつか大人たちに自分を認めさせてやると闘志を燃やし、赤ずきんは明日の仕事へと備えた。




