表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告白されてみんなの前でバラされたので、僕は屋上から飛んだ  作者: 万和彁了


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第9話 自力救済禁止の原則

 池袋の博物館でハンムラビ法典の模型を眺めていた。


「目には目を、歯には歯を」


 教科書で習ったそんな言葉を口にする。あたしはまだ報復を受けていない。罪は雪がれない。


「ずいぶんとぶっそうね」


 万和さんがいつの間にか隣にいた。


「現代法は報復を禁止している。じゃないときりがないもの。ハンムラビ法典も、もともと人のコミュニティが持っていた報復機能を縛るために生まれた。罪を償えるように基準を定めた」


 インテリっぽい物言いだと思った。まあ大きな芸能事務所を経営できるってことはそういうことなんだろう。


「万和さん。アイドル(偶像)は罪を償えますか?」


「あら。哲学的ね。そうね。むしろ偶像崇拝は、アブラハムの宗教なんかではそれそのものが罪深い所業よ」


「みんながあたしを崇拝してくれる?」


「ええ。皆があなたに夢中になる」


「みんなが見てくれる……」


 その言葉に惹かれる自分がいる。誰もが見てくれるなら。きっと。


「アイドルにしてくれますか?」


 そして万和さんは笑う。


「ええ。任せて頂戴」


 あたしはアイドルになる。そう決めた。


「一応確認しておくけど、ヴァージン?」


「それって重要ですか?」


「偽物を売る気はないの。あなただけは本物として売りたい」


「なら大丈夫です」


 どうしてそんなのが大切なのかわからないけど、条件を満たしていて良かった。でもまだ一つクリアしないといけないことがある。





















「君は本気で人を舐め腐っているのかな?」


 弁護士先生があたしを強く睨んでいる。両親はオロオロしているし、万和さんも戸惑っている。あたしは万和さんと両親を連れて弁護士先生のところにやってきた。未成年のあたしは芸能活動するのに保護者の同意が必要だ。


「言ったよね。君を守るために方々手を尽くしていると。それを台無しにする気か?」


「わかってます。だから許可を貰いに来たんです」


 大人じゃないから守られている。だけど大人じゃないから出来なこともある。


「ねぇるいかちゃん。さすがにこの爆弾を抱えるのはうちでも難しいわ」


 万和さんもさすがに辞めたくなったらしい。だけど隠していてもバレるならここで晒さないといけない。


「雇い主も戸惑っているようだし、まあ諦めるんだね」


 弁護士の先生はホッとしように笑った。問題が解決して一安心。でもあたしはそれじゃ困る。弁護士先生にはここでイエスと言って貰わないといけない。あたしはバックから包丁を取り出す。皆がぎょっとする。


「おい何を考えている。そんなもので脅そうって気か?」


「脅す?違います。納得してもらうだけです」


 あたしは左手の手首を切る。血が思ってたよりも勢いよくでてテーブルと床を汚す。そしてそのまま包丁の先を自分の胸に突き立てる。


「納得してくれます?」


「まてまてまて!」


 弁護士の先生が立ち上がる。


「落ち着け!話し合おう」


「納得しか求めてないんです」


 両親はあたしを見て怖がってる。万和さんは、ひどく獰猛な笑みを浮かべている。


「先生。やっぱりうちで預かります。この子。すごく綺麗」


「何を言ってるんだお前は!こんなのまともじゃない!」


 弁護士の先生があたしに近づいてくる。だからあたしは包丁を胸にゆっくり差し込んでいく。服が切り裂かれて肌に刃が触れる。少しちくっとした。弁護士先生はそこで足を止めた。


「ありえない。本気なのか?」


「やりたいことができないなら。目には目を、歯には歯を。命には命を」


「法律家の前でふざけるなよ!?」


 誰もがあたしを見ている。見ているんだ。弁護士の先生もあたしをクライアントの部品だと思ってた。だけどあたしを見た。


「見てあたしを。あたしを見て」


「見てる!見てるからやめろ!」


「なら納得して」


「あぐぅううう!」


 万和さんが契約の書類をテーブルの上に置いた。そしてそこにサインをして、あたしの血を親指に取って、それで捺印した。


「いけてるわ。こんな契約書素敵よね」


 もうその書類にはあたしのサインと印が入ってる。


「ぱぱ、まま。書いて」


 あたしが言う通りにパパとママがサインした。


「先生。これで要件は満たしたよね?」


「……こんなやり方。こんなの……」


「もう少し必要?」


 そう言って手を動かそうとすると。


「わかった認める!私もサインしよう!顧問弁護士になる!だからやめてくれ!」


 書類に先生もサインした。あたしは包丁を部屋の隅に投げ捨てた。万和さんがあたしの手首の傷を触ってくる。


「すぐにいい病院につれてく。この程度なら綺麗に消してくれるから安心して」


「残しておいて」


「それが望み?」


「はい」


「わかった。仕事の時は化粧で消しましょう」


 これであたしはアイドルだ。誰もが拝む偶像になれる。


「君は狂ってる」


 弁護士の先生はうなだれている。


「自力救済はしちゃいけないんだ。だから法があるのに」


「法じゃ罪は雪げない」


「違う。それは人類の歴史への冒涜だ」


「いいよ別に。罪は地球よりもきっと重いから」


 誰もが何かに縛られる。でもあたしはあたしの決めた罪だけに縛られたい。そう祈る。





作者のツッコミ



弁護士先生が言ってるるんですが、自力救済は近代法治国家が原則的に禁止してるわけですよ。

わりと最近ざまぁラブコメが流行ってますけど、あれほとんどが自力救済ですよね?

法治とは真反対の蛮性の発露なのかもしれません。

最近ずっと法律の勉強をしていますが、法律っていうのは人類が自らの野蛮を封じ、文明を啓くために創り出したアートだと思います。

近年はそれに逆行するようなsnsでの私的制裁が横行していますが、私は賛同できない。

正義は法の手続きをしっかり守って実現されるべきだと、一人の法曹志願者としては思うわけです。

るいかは罪を法ではなく自分のやり方で雪ぐと決めた野蛮人です。

見届けてくれたなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ