第7話 分岐路
天羽に会いに行って追い返されてからすぐのことだった。両親と共に綿島の弁護士に呼び出しを喰らった。
「天羽さんへの面会や謝罪を希望するのはやめていただけませんか?」
殺風景な執務室でそう告げられた、窓の外には丸の内の高層ビルたちが見える。大人の世界を知らないあたしだってここがすごい力のある弁護士事務所なんだってことはすぐにわかった。
「まだ天羽さん側からのアクションはありません。この段階でこちらから仕掛けるのは駄目です」
「おっしゃる通りですよね!るいか!あなたは本当に何を考えているの!?」
あたしには納得がいかなかった。悪いことをしてしまった。
「謝らなきゃいけないの。おかしいはずない」
「そうですね。それが一般常識だ。あなたは間違ってないよ」
弁護士の先生はそう言った。だけど目を鋭くしてあたしを睨む。
「はっきり言おうか。あなた方はクズだ。私個人としてはネットに晒されて玩具になって制裁を受けてぐちゃぐちゃになればいい。そう思う」
「ならなんで」
「あなた方には防御権がある。それに弁護士としてはSNSや伝言などによる私的制裁を認めるわけにはいかない。それは健全な社会を乱す行為。これは法曹としての道徳だ。故に君たちを弁護している」
軽蔑されている。そう感じた。それは間違ってない。それだけのことをした。
「子供は制限能力者だ。たとえ正義であっても制裁は正しく司法の場で行われるべきだ。そう自分に言い聞かせてる。それくらい今回の事件はひどい。ネットの細工業者やさまざまな法令の活用で君たちはいま民衆の悪意から守られている。それを自覚して欲しい」
「そんなの余計なお世話だよ」
「それを望むのは君ではない。君のご家族だ。君の行為のせいで職を失うことだってあるかも知れない。君は家族を危機にさらしているんだよ。それを弁護チームがなんとか食い止めている。いい加減弁えてくれ」
バカな子供に付き合ってられない。そう弁護士の先生は思っているのだろう。悪いことをした。なのに守られているのはおかしい。でもあたしにできることはない。本当に。
「とにかく大人しくしていること。私だっていやなんだよ。なんのために弁護士になったのか……。ふぅ。正義はどこにもない……」
みんな何かに板挟みになって動けなくなっている。そうしたのはあたしなのに。ごめんなさいの一言さえ言えない。間違っているのに、言葉にするにはあたしは頭が良くなかったんだ。
街をぶらぶらしていた。池袋で天羽と一緒に歩いた場所をただひたすらうろうろしていた。
「一緒に楽器屋に入ればよかったなぁ」
楽器屋さんの前でしゃがみこんでベースを睨む。もう彼がベースを弾く姿は見られないのだろうか?あたしはもう彼の目に映らないのか。スカートを短くしても、胸元を開けても、見られない。見てくれない。見て欲しい。見て見て見て。
「ちょぉといいかしら?」
誰かに話しかけられた。振り向くとそこにはすごく背の高い女の人がいた。ド派手なアロハ柄のシャツとロングスカート。なんとも個性的な出で立ちだ。
「なんですか?宗教ならいりません」
「そういう風に言うのはむしろ神を必要としている人の言葉よ。まあいいわ。私ぁはこういう者です」
名刺を出された。万和アートエンターテイメント 万和了子
「風俗?AV?」
「うちぉを知らないの?!いろんなアイドルを輩出している新進気鋭の芸能事務所よぉ!」
スマホで調べてみる。確かに出てきた。あたしでも知っているアイドルグループが名を連ねている。
「はぁ。それで?」
「それでって。わかるでしょ。スカウトしているのよ」
「あたしを?」
「あなたを」
女の人は目をキラキラしている。
「あなたからは原石の匂いがするわ。うちの事務所に来ない?お話だけでも」
「怪しいんですけど」
「警察読んでもらっても構わないわよ。その自信はあるから」
だそうだ。全く興味がなかった。アイドルってオタクと握手するのが仕事なんだろうってことは知っている。自分の小指を見る。天羽に触れた指に甘い感触はまだ体に残っていた。それを誰かに上書きされるのは嫌だった。
「興味ないんで」
「そう?でもあなたってすることないんでしょ?長年色んな女の子見てきたからわかるわ。何かがしたいのに何も出来ない自分が恨めしいんでしょ」
図星を突かれた。だけど相手のペースに乗せられたくない。あたしは女の人を無視して駅に向かう。
「名刺は渡したわぁ。それにまたここら辺を見回りするからぁ。よろしくねぇ!」
背後から声をかけられたけど無視する。アイドルになったって、罪は雪がれることはない。あたしにはいらないものでしかなかった。




