第22話 彼の祈り
僕はただ静かにモニターを見ていた。デプロイは完了している。
「こっちも準備大丈夫」
「わかった。ありがとう。じゃあ公開開始!」
僕はAWSの起動スイッチを押した。ログが吐かれて順調にゲームサーバーが立ち上がったことを確認した。
「火光さん。本チャンは動いてる?」
「大丈夫。テストアカウントでのプレイは問題ないわ」
「よろしい。ではリコメンド広告起動。ボットを動かして各種掲示板への口コミ偽造開始!」
「了解。ボット起動。口コミサイトなどへのプレイ動画、口コミの書き込み開始」
「ユーザー数確認」
「現在事前告知のユーザーの65%がログイン確認。順調に推移」
「インフルエンサーへのプレイ動画投稿の命令発動」
「Youtuber,Vtuberへのプレイ動画投下命令送信。各種動画サイトへのライブ配信スタート」
「ではしばらく様子見。お疲れ様でした。休憩しよう」
僕は作っていたゲームを公開した。火光さんがコーヒーを淹れて、茶菓子を出してくれた。それを二人で摘まみながらモニターを見る。
「うまくいくといいね」
「うまくいくよ。直感してる」
そしてことは僕の読み通りになった。ユーザー数がうなぎ上りになっていく。同時に課金が始まった。
「うそ?!ここまで伸びるの?!サーバーのスケール大丈夫かしら?!」
「だからあのアルゴリズム!」
サーバーはAWSの拡張もあるが、十分に処理をこなしていた。予測よりもいい処理速度。これならAWS側に従量課金で払う予定だった額の76%を削減できるだろう。
「すごい!すごい!!やっぱりあなたはすごい人なのよ!!ねぇ!言った通りじゃない!」
火光さんは僕に抱き着いてくる。涙をボロボロに流しながらも笑っていた。僕は彼女の頬を撫でながらもこの成功を堪能していた。
【インディーズゲームで快挙!!】
インディーズゲームは今やスタンダードな表現の世界になった。世界中の人々がゲームを気軽に作り発表する時代になって多くの人々がそれを楽しんでいる。その中で強烈なきらめきを放つ新星が現れた。
サークル「José e a Luz do Fogo」による、
【Filhos de Deus nas Ruas】
直訳すれば「通りに生きる神の子たち」とでも言えばいいだろうか?このゲームは架空の南米、おそらくはブラジルのスラム街「Santa Aurora」で主人公が成り上がっていくという一見すれば先行のギャングファンタジーの後追いにも見えるゲームだ。だがこの物語にはなにか祈りのような誠実で切実な思いが込められている。犯罪でしか生きられない子供を通してみる社会の闇を軽妙で洒脱な語りで描いて見せる。ラテン的な明るさと凄惨な闇が交互に行きかう中でプレイヤーは罪と罰を知るのである。課金要素も魅力的だ。プレイヤーがキャラクターを強化するために課金をするのは一般的だが、このゲームではプレイヤー=キャラクターの構図ではなく、プレイヤーは善意の一般人としてキャラクターへ金を恵んでやるという形で課金が行われる。その中で主人公はその金を使って犯罪に走る。社会構造が暴力を肯定しているため、プレイヤーの善意は届かないのだ。この無常観に魅せられる。ゲームが終わって日常に帰っても、「Santa Aurora」の社会の闇を思い出してしまうのだ。これほどの世界観を提示してきたのが企業でもないサークルであることに驚きを禁じ得ない。筆者はサークルにインタビューを申し込んだのだが、「ゲームの感想はプレイヤーのモノ」というスタンスで断られてしまった。今後もこのシリーズは拡張していくという返答は得られた。ぜひこの機会にプレイをしてみてはいかがだろうか?自信をもってお勧めする。
すみれがスマホでゲームをしていた。すごく難しい顔をしていたと思ったら、ぐすぐす泣き始めた。
「うう!こんな悲しいことあるの?!うーえん!」
そう言いながらもなにかボタン操作して課金しているようだった。
「すみれ。悲しいならゲームしなくて良くない?」
「何言ってるの?!悲しさも含めてゲームだよ!!」
何を言ってるのかよくわからない。ゲームって楽しいものじゃないの?
「この【とおかみ】は本当に神ゲーだよぅ。課金が!課金がとまらないぃ!!」
まあ好きにしたらいいけど。
「るいかちゃん!!」
「は、はい!なにかな?!」
「一緒にプレイ動画やろう!!」
「ええ?あたしそのゲームに興味ないから迷惑だと思うんだけど」
「だからいい!!るいかちゃんが新しく初めて、それをわたしが横で後方彼氏面する配信!!」
「うーん。まあやりたいなら付き合うよ」
「ありがとう!このゲームは拡散MUSTだからね!!」
すみれがここまでいうならやってみようと思った。まあ彼女の好きなものをアピールしたいという気持ちもわからなくはない。べつに損のある話でもないし、まあやってみようかな。




