表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告白されてみんなの前でバラされたので、僕は屋上から飛んだ  作者: 万和彁了


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

第11話 踏み台デビュー

 ソシャゲーを作ってみようかなんて話が持ち上がった。だから実験のためにサーバー代わりのPCを買いに池袋に行った。杖を突きながら歩くと嫌でも人目が気になる。ましてや自分は顔貌も瞳の色も日本人とは大きく違う。目立って仕方がない。隣にいる火光さんに迷惑じゃないだろうか?そんなことばかり考えてしまう。


「どれにしようかしらね?」


「実験用だし、本チャンはどうせAWSか他所のクラウドサーバー借りるし、とりあえず適当でいいんじゃないかな?」


「そうね。そうだわ。ついでに私のPCも買いましょう。今みたいにノート持ち込んでモニター繋ぐのもいい加減鬱陶しいし」


 家電量販店のPCコーナーで僕たちは自然と別れて、それぞれ目的の物を探す。


「増設考えたらこれかな?やっぱり秋葉原で買った方がいいかな?」


 買い物をしている間は楽しい。嫌なことを忘れられる。まあ買い物依存症にならないように重要な財産はおじさんと弁護士さんの管理下に置いてあるけど。自分は所詮無能力なんだと思う。今の自分、いいや、両親が死んでからはずっとまともじゃなかった。僕に判断力なんてきっとなかった。だからあんなことになった。


「あ?てめぇ?!」


 僕の背筋が震えた。この声はよく覚えてる。振り向くとそこには綿島とあの時の取り巻きがいた。


「なんでここにお前がいんだよ!!あん!?」


 声が出ない。目の前が揺れる。そんな不安定さを覚える。


「お前のせいで俺は転校する羽目になって!部活も出来なくなったんだぞ!あのままならスポセンだっていけたのによぅ!」


 綿島はひどく怒っていて僕を強く睨んでいた。それだけじゃない取り巻き達も同じだ。


「あんたのせいで彼氏とも別れたんだけど!責任とれよ!」


 何を言っているのかわからない。考えたくない。僕が何も言わないでいるからだろう。綿島は僕の胸倉を掴んできた。


「てめぇは消えるにしても迷惑かけてからとかまじで何考えてんの?ほんとさぁ!他人のことを思いやれないわけ?!」


 そして僕は突き飛ばされる。床に倒れて杖が床を滑っていった。僕は這いずりながら杖の方へと向かう。


「おまえなに?もしかして一人で立てないの?ウケるわ!天罰だわ!ひひひ!」


 そしてやっとつかんだ杖を綿島が蹴飛ばす。僕は床に座ったまま綿島を見上げる。そこには恐ろしい笑みだけがあった。怖い。とても。あの時感じた恐怖以上。両親が死んだ時と同じ。


「やめなさい!」


 僕がぼーっとしている間に火光さんが傍に寄って着ていた。杖を拾ってきて僕に渡して立つ手伝いをしてくれた。


「なに?女いんの?しかもこんな上玉?おいあんたそんな出来損ないなんて放っておけよ。俺たちと遊ばないか?」


「ふざけるな!この人でなしが!」


 火光さんは思い切り綿島を殴った。近くのパソコン棚にぶつかって商品をまき散らして倒れる。


「お前ざけんじゃねぇぞ!」


「お前の方がぁ!」


 火光さんはそのまま綿島に馬乗りになってひたすら顔面を殴り続ける。


「ちょまてぇ!やめ!」


「死ねよ!お前が死ね!」


 ひたすら綿島は殴られる。そのうち警備員さんが二人の間に入ってきて、喧嘩は止まった。そして警察がやってきて僕たちは聴取を受けた。僕はずっと何もしゃべれなかった。弁護士さんがやってきてくれてすぐに開放になった。


「人間のクズって本当にいるのね!なんであんなのがのうのうとしてるのぉ!ひどすぎる!」


 僕は火光さんのその声にこたえることができなかった。そうだ。僕がなにも、叔父が言うように裁判だって提起しないのも怖いからだ。情けない自分が一番嫌だった。





















 プライベートレッスンでひたすらしごかれる日々は嫌なことを忘れられるから好きだった。


「今度の公演には間に合ったわね。じゃあ専用の自己紹介タイムを設けてあげるからしっかりアピールしてね」


「いいです。専用の時間はいらない」


 万和さんはきょとんと眼を丸くしていた。


「その心は?」


「時間ならきっと向こうから来ます。それくらい制せなきゃだめ」


「ふむ?まああなたがそういうならいいわ。一応あなたのデビューソングは用意しておくから必要なら言ってね」


 あたしには一つ確信があった。サザンカさん。彼女がキーマンだという直感。だからあとは待てばいい。自ずとチャンスはやってくる。














 定期公演がやってきた。劇場の席は満員。ファンたちが各々の推しを応援するために馳せ参じていた。それを舞台袖から見る。あたしやすみれを応援するものはまあいない。後ろで踊っている子なんて誰も目もくれないのだ。だからいい(・・・・・)


「何あんた緊張してんの?」


「はい。そうなんです。怖い。すごく怖いんですぅ」


 サザンカさんが話しかけてきた。その笑みにはどこか厭らしい匂いがする。釣れた。


「そうなの。まあ安心しなさいよ。後ろの子たちはただ踊ってればいいから大丈夫。正面にいきなり立たされることなんてないから安心して」


「ふぅ。よかった。それなら頑張れます☆」


 わざとらしく顔の前でピースしてみる。痛い子に見えているだろうか?それならいい。あたしのその様子に満足したようでサザンカさんは控室に戻っていった。これでいい。これでいいんだ。あたしは口元が歪むのを抑えるので精一杯だった。













 あの日のことはよく覚えているんですよ。ええ。俺が間違いなくるいかちゃんのファン一号ですからね。


「みんなー!きょうもきてくれてありがとう!」


 会場は盛り上がっていました。皆がそれぞれの推しのためにサイリウムを振る至高のひと時だったんです。だけどすぐに気がつきました。どこかぎこちない女の子がいることに。


「サザンカちゃーん!」「サクラちゃーん!」「ヒマワリちゃーん」


「「「「「わぁおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」


 人気のメンバーは正面で優雅にそれでいて自信ありげに大胆に踊っていました。だけどその子は。そう。あのるいかちゃんは端っこの方でぎこちなく、少し周りから遅れた感じだったんです。不協和音ですよ。ええ。はっきり言ってノイズだと思いました。顔は確かにすごく綺麗だけど、へたくそは消えろよって思いました。推しの邪魔をするなってヘイトを向けていたんです。そして何曲か終わってからトークが始まりました。各人の芸能活動の報告とか日々のメンバーの絆の話。そんなほっこりタイムで、サザンカさんが突然言い出したんです。


「みんな気づいたかな?実は新メンバーが入ったんだよ。来てるいかちゃん!」


 そう。会場の誰もが思いました。あのへたくそかと。そんなのどうでもいいと。白けた空気が蔓延したんです。だけど。いるんですよ。本物が。


「はーい♡今行きまーす」


 胸がずきっと痛みました。それはその子の作ったぶりっこ声の痛さじゃないんです。甘さの持つ冷たさですよ。わかります?伝わるかなぁ?とにかくそうだったんです。そして会場のみんながるいかちゃんを見たんです。ゆっくりと。ゆっくりと間を開けて真ん中にさも当然のように歩いていく。空調のせいだったんですかね?そのとき、彼女の長い黒髪がふわりと浮かんだんです。そしてその瞬間です。彼女は僕を!この僕を見ながら微笑んで投げキスをしてくれたんですよ!!!!!


「……天使」「ああ、なんだあの子?」「胸が痛い……きもちいい!」


 やられましたよ。誰もが彼女に一瞬で落ちました。


「皆さんはじめまして。るいかです!よ・ろ・し・く・ね♡」


 胸の前で♡マークを作ってウィンクする彼女に僕たちは新時代を感じました。本物だ。古の時代に君臨した本物のアイドルが降り立ったってね。そして胸がとにかく痛かったんです。それが酷く心地いい。偶像を拝むなって外国の宗教では言ってるんですよね?わかりましたよ。そりゃ拝みっぱなしで何もできなくなる。彼女は毒ですよ。ええ。僕はるいか中毒なんです。でもいい。それでいいんです。四六時中彼女のことしか考えられなくなる。そんな毒でも気持ちいいから!


「はーい。ほんとうぁ!あたしのこといっぱいいいっぱいぃ!知ってほしいんだけど、あたしはおしゃべりが得意じゃないんだ。だから歌うね!あなた(・・・)に届いて!」


 そして知らない曲が流れ始めました。それは官女のための曲だってわかった。だって周りの。今まで僕たちが推してたカノジョたちの誰もが動けなかったんだから。るいかちゃんは一人で踊り歌ったんです。あとは真っ白ですよ。真っ白。


「「「「「「る・い・か!る・い・か!」」」」」」


「みんなありがとうぉ!いえーい!」


 曲が終わったころにはもうその舞台の女王はルイカちゃんでした。そのまま他の演目も始まったけど、彼女はずっとセンターに居ました。それが自然だったんです。そうこれが伝説、いや神話の始まりですよ……とぅびーこんてぃにゅーど……。









「あんたふざけんじゃないわよ!」


 あたしはサザンカさんとリーダーのサクラさんに壁にどつかれていた。


「何がですかぁ♡」


「とぼけないでよ!何かましてんの!あんなの!ずるでしょ!ポジションも守らないで!」


「あたしはぁ☆ただプロとしてぇ★お客さんがやって欲しいって思ってたからやっただけですよ♥」


「だからそれが駄目だって言ってんの!」


「うーん?あたしぃ先輩が何言ってるのかわかんないぃ★」


 てへぺろっていうらしいね。舌を出して笑っちゃうの。だけどそれが火に油を注いだみたいでみんなからすごく睨まれちゃうわけで。


「このぉ!」


「はい。そこまで」


 万和さんが控室にやってきた。


「るいか。あなたはやりすぎ。罰としてステージ謹慎二週間」


「はーい♡わかりましたぁ」


「社長!この子おかしいですよ!いますぐやめさせてください!」


 サザンカさんの声に追従する者たちがとても多かった。


「だめ。この子は金になる」


「そんなぁ!」


 万和さんは取り合わなかった。それどころかあたしのことを楽し気に見詰めている。周囲と軋轢は生んだけど、あたしの印象は既存のファンたちに強く残った。新しい人を味方につけるよりも、すでに誰かのファンの人を裏切らせてあたしのファンにする方がよっぽど簡単。だからこそのあのステージなんだ。踏み台はあればあるほどいい。全部踏みつぶす。あたしのために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ