最終話:始まりの場所で願う
変わることや変わらないことを考えていて、ここ最近迷っていたことに決心がついた。
「ここは、私にとって始まりの場所なんですよね。おじいちゃんと出逢って、デメトリオさんに恋をして、婚約者として初めてのデートをして。今は、夫婦として初めてのデートをしてます」
「あぁ、俺にとってもそうだ」
「もうひとつ、初めてを増やしたいです」
「ん?」
こてんと首を傾げたデメトリオさんの手をそっと握って、向日葵のような瞳を見つめる。
「リオがね、ずっと敬語や丁寧に話すのやめてほしそうなのは気付いてたの。でも人目もあるからなって。時々、雑にはなってたけどね?」
「ん」
「でももう夫婦になったんだし、崩していこうかなって。そうしてもいい?」
「っ、ん!」
デメトリオさんが以前、おじいちゃんにはラフな言葉遣いなのに、なんで自分には違うんだと言っていた。
おじいちゃんが特殊だったこともあるけど、私の言葉遣いが硬いせいで、デメトリオさんに嫌な思いをさせてしまっているのは気になっていた。だから、この機会に少しずつ変えて行けたらなと思っていた。
デメトリオさんが嬉しそうに笑い、頬を染めてくれるのだから、変に拘らずに早く決意すればよかったかなとは思うものの、やっぱり立場とかは大切だし、たぶん人前では今までどおりに敬語とかになるときもあるかもしれないけど。
「やっと、祖父に肩を並べられた気がする」
「張り合ってたの!?」
「エマ、祖父が大好きだったろ? それに今でも大好きだろう?」
「…………っ、うん」
「でも、それでいいんだ。俺も……あの人が好きだった。一生勝てないと思うけど、近づきたい目標だから。ただ、エマだけは渡したくないが」
「ふふっ。私も、リオだけは誰にも譲りたくないよ?」
デメトリオさんが力強く頷いて、自分も何かここで新しいことを決めると言って少し考え込んだ。
「貴族も平民も、俺たち王族も、もっと生きやすい世の中にしたいな」
「うん、そうね」
「身分関係なく各省庁の採用枠を増やし、国民たちとの交流を持てるような政策を立てる。そして、こういうふうに人々に交ざり、のんびりと出来る夫婦の時間を作る」
デメトリオさんの両手が、私の頬を包むように移動した。
「だから……エマ、キスしていいか?」
「あははっ、なんでそうなるの」
「したいから?」
真面目なデメトリオさんも、煩悩にまみれたデメトリオさんも、それはそれで可愛いので、ゆっくりと目蓋を閉じて、顔を少し上に向けた。
ふわりと触れた唇は柔らかく甘かった。
■■■■■
死期がどんどんと近づいてると自分でも分かる程に身体に力が入らない日が増えた。せっかくエマちゃんと仲良くなれて、デメトリオの変化も楽しくなってきたのにのぉ。
ルチアには先立たれるし、本当に人生はままならんもんじゃ。
「さて、書き直すかのぉ」
元々、遺言状は作り終えていた。息子には特大の爆弾を仕込んで満足しとったが、あっちよりもデメトリオの方が気になって仕方なくなってしもうたから、宰相に言い、預けていた遺言状の差し替えを行うことにした。
エマちゃんと待ち合わせしているガゼボで、ペンをゆらゆらと動かし考えること五分。
――――よし、決めた!
エマちゃんには『王太子の嫁な!』と書いて、デメトリオには『エマちゃんを嫁にしろ!』でええじゃろい。
デメトリオは堅物じゃからのぉ、遺言状にこれくらい書いておく方が良かろう。
エマちゃんの地位の低さを気にするやつらもおるかも知れんが、ルシエンテスと聞けば王族や上級貴族はみな納得するだろうしの。
それほどに、無敗のチェス王は強い。まぁ、本人はぽやぽやだが。
そしてそれに教育されたエマちゃん。あれは、化け物だ。これまた、本人はぽやぽやなんじゃがの。
この先、二人がどうなっていくのかマジで気になるが、ワシが見ることは叶わんだろう。
天に召されてルチアと再会したら、器用なくせに不器用な二人のことを沢山話したい。そして、ルチアと二人でヤジを飛ばしながら観察出来ればええのぉ。
ワシの可愛い可愛い子どもたちに、幸あらんことを祈る――――。
―― fin ――
最後までお付き合いありがとうございましたぁ!
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もうずいぶんと押し上げていただいていますが、もうひと推しをいただけますと幸いですってか、小躍りしますヽ(=´▽`=)ノうひょわぁぁぁぁ!
感想の返信出来ておらず、申し訳ないです。
まとめてドバドバ来たらごめーーーーんm(_ _)m