75:普通にしてほしい。
実家をあとにし、デメトリオさんに王立庭園に行かないかと誘うと快諾してくれた。
以前一緒に城下町巡りをしたピッタルーガ伯爵が監修している屋台が始まっている。デメトリオさんも私も結婚式の準備に追われていたので、まだ視察にいけていなかった。
視察で向かうよりデートとして利用してみた方が、実際の使い方に近いしいいんじゃないかと思ったのだ。
「おぉ、結構人がいますね」
「盛況だとは聞いていたが、平日のこの時間にも人がいるのは驚きだな」
私もデメトリオさんも、おじいちゃんと過ごした日々を覚えているので、人がいっぱいいることにちょっと違和感を覚えてしまっている。
庭園の中をのんびり歩いていると、こちらを見て驚いている人や指さす人がいた。
「バレてしまいましたね、すみません。以前は気づかれてなかったのになぁ。あっ、王太子になったからですかねぇ?」
「……エマ、人のせいにするな。言っとくがエマの姿絵も出回っているからな?」
「描いてもらった記憶はありませんが……」
どうやら、夜会に参加すると大体画家がいるから、描かれるのだとか。そういうの教えといてほしかった。そして、出回ってるのも教えといてほしかった。
「す、すまない」
「あっ、いえ、デメトリオさんのせいじゃないですよね。ごめんなさい」
二人でアワアワと謝りあっていたら、近くにあったクレープ屋台の店主さんに声をかけられた。
「あ、この前の!」
「あのときは来店してくださってありがとうございました」
「出店してくれたんですね」
「はい!」
ところで、何を謝られていたのですか、と聞かれた。
聞こえていたのかと、ちょっと恥ずかしくなりつつも理由を話したら、「仲がよろしいですね」とくすりと笑われてしまった。
うん、仲はすごくいいと思う。ケンカというか、すれ違いを起こしたりもあったけど、過ぎてみればいい思い出だし。
「あ、クレープ二つください」
「ありがとうございます!」
結婚祝いにとプレゼントしようとしてくれたけど、美味しいものにお金はちゃんと払いたいので、その気持ちだけくださいとお願いした。あと、声をかけてくれた勇気にもお礼を言った。
出来れば、これからも普通に話しかけてほしい。普通にお客さんとして扱って、お金を受け取ってほしい。
クレープ屋さんにそうお願いしつつ、デメトリオさんをちらっと見ると、ふわりと微笑んで頷いてくれた。
きっとデメトリオさんもそれでいいと言ってくれると思っていた。
「皆が平等に穏やかに過ごせるようにと、前国王陛下がここを作った。この庭園にいる間は、どんな身分だろうと、利用者として過ごしたい」
「っ、はい! では、クレープ二つ――――」
出来立てのクレープをもらい、ちゃんとお金も払い、庭園内の他の屋台に向かうことにした。





