69:義母と義娘
体を清めて、着替えをしようとして、ちょっと溜め息。
いたるところにあるキスマークが見えなくなるようにしなきゃと思っていたけれど、着替えたら全部見えなくなった。
――――計算し尽くされてる。
計画的というか、頭が良いというか、執着心とかなんか深追いしたら危ない感じの何かかもしれないので『わぁ、凄い!』と思うに留めよう。うん、きっとそれが安全。
「エマ、夕食は食べられそうか?」
「はい」
お風呂から上がると、デメトリオさんがスススと寄ってきて頬にキス。入っている間に手配をしてくれていたらしい。
なんというか、普段から結構甘やかされてるけど、今日は一段と甘やかされているような?
食堂に向かうと、国王陛下がヒラヒラと手を振ってくれた。そしてその隣の席には、カサンドラさんがいた。
「――――ッサンドラさん!」
パタパタ走って、魚料理を食べていたカサンドラさんに抱きついた。
流石カサンドラさん。
私が突進してきていると分かった瞬間に、フォークとナイフを素早く置き、スッと身体をこちらに向けて両腕を広げてくれた。
カサンドラさんの腕の中にスポッと収まって、深呼吸。なんでかめちゃくちゃ落ち着く。
「離縁したくなりましたか? 全力でお手伝いいたします」
「あははは! まだ大丈夫!」
「まだ!? え、エマ!? まだ、なのか? えっ!?」
どうやら、抱き潰したと言えそうな程にアレだったデメトリオさんに、しっかり仕返しが出来たらしい。
「おやおや、もう夫婦の危機かい? 早いねぇ」
「チッ、煩い」
いつの間にか聞き慣れたデメトリオさんの舌打ちに笑いながら、食事の席に着いた。
国王陛下から、今日明日くらいは起き上がれないかと思ったよと言われ、それはさすがにセクハラすぎでは……と思ったら、デメトリオさんとカサンドラさんが声を揃えて陛下に罵詈雑言を飛ばしていた。
「カサンドラは、エマ嬢のことになると庇護欲が爆発するねぇ。正しく母のように」
「ええ、娘になりますから」
「ねーっ、お義母様」
カサンドラさんに抱きついたまま、二人でクスクスと笑っていたら、デメトリオさんが「んんっ」と咳払いした。
「エマ、そろそろ戻って来て」
少しいじけたような顔で右手を差し出されて、心臓がぎゅんんんっと締め付けられた。こういうときのデメトリオさんって、物凄く可愛い。
カサンドラさんにご飯の邪魔してごめんねと謝って、デメトリオさんの隣に移動し、食事の席に着いた。
「さて。丁度いいから食事をしながら今後のことを話したいのだが――――」
陛下とカサンドラさんは話し合って、結婚式は行わないことにしたらしい。陛下はやりたい気持ちの方が大きかったが、カサンドラさんが嫌がったらしい。
なんでだろうと聞いてみたら、カサンドラさん的にも、この国的にも、王妃陛下は亡くなられた王妃陛下だけなのだという思いが強いらしい。
「もちろん王妃の職務は全うします。でも、あこがれでもあった王妃陛下を忘れたくはありませんので。私は私の立場をこれから作って行きたいと思います」
形式上で妃殿下という扱いが可能とのことで、カサンドラさんはそちらを選んだそう。
陛下もカサンドラさんの意を汲み、納得しているとのことだった。
「まぁ、何かしら言われることもあるだろうが、私が全て蹴散らせばいいだけだからね」
――――陛下、男前ね。
企画で短編書いてますので、よかったらそちらも☆
しごできメイド長、かわいいよ(*´艸`*)むふ





