64:新婦になる準備
結婚式当日の朝は早い。
部屋で軽めの朝食を摂り、入浴とマッサージ。
コルセットを段階的に締め、最終調整を終えたら、休憩。肋や内臓が動かされた感じがしてちょっと苦しい。時間を掛けながら締めるから、いきなり締められるよりはマシなんだけど。
王城に来て、毎日デイドレスを着ていた。簡易的なコルセットには慣れていたけれど、婚礼用のコルセットは格別な攻撃力だった。
「エマ様、飲めますか?」
「ゔ……」
「一口でもいいので、水分の補給はしておいたほうがいいです」
「うん」
カサンドラさんに勧められて、レモンを少し絞った水を飲んだ。
苦しくて飲めないかと思っていたけれど、レモンの爽やかさと、かなり冷たくしてくれていたことで、コップの三分の一くらいは飲むことが出来た。
「ぷはぁ」
「もう少しだけ休憩したら再開しましょう」
「うん」
次は化粧とヘアメイク、その後にドレスを着る。それでほぼ完了。手順的にはあと三ステップかとホッとしそうになるけど気を緩めてはいけない。ただドレスを着るといっても、ウェディングドレスは普段のドレスのように、背中や脇腹を編み上げるリボンが付いていないのだ。
ドレスは、着たあとにお針子さん二人がかりで仕上げ縫いをしてもらう。
布がたくれたりシワにならず、身体にしっかりフィットするために、ファスナーや編み上げリボンはない。着用するために縫っていない場所があり、着用後にそこを縫い閉じるのだ。
「ヘアメイクと化粧は完了しました」
「ありがとう」
やっと、ドレスの着用開始だ。
デメトリオさんとデザインを話し合い決めたのは、淡い黄緑色から濃い黄色になり、裾はオレンジ色にグラデーションしているホルターネックのドレス。
デザインを話し合う際に、出来るならヒマワリっぽいものがいいと伝えたら、デザイナーさんとお針子さんたちが理由を聞いてきた。
デメトリオさんの瞳がヒマワリっぽいからだと言うと、悶絶しながらデザインしてくれた。
スカート部分は色の違うギャザーを寄せたオーガンジーを段々に重ね、グラデーションに見えるように作られている。
風が吹くとふわふわと揺れるようになっていて、とても可愛い。
ホルターネック部分を後ろで縫い合わせてもらい、次に背中を縫ってもらう。
「あっ…………その……申し訳ございません、少し皺があるので縫い直します。す、すぐ出来ますので」
この作業には慣れているのだろうけれど、王太子の結婚式での作業というのは違うプレッシャーがあるんだと思う。お針子さんたちから、ちょっと焦っているような空気は出ていた。
「慌てなくて大丈夫よ」
時間に余裕があるからなど、カサンドラさんがお針子さんたちの作業を確認しつつ、適度に声をかけていた。こういうところ、本当にシゴデキだなぁと思う。
――――もっともっと見習わなきゃ。





