61:予想外すぎる一面。
とにもかくにも、父が見付かったことでホッとした。少年のことも気の毒だなとは思うけど、これだけの人に迷惑をかけたことだけは、本当に許せない。
「帰って来たら、全力でシバき倒します」
「ブフッ……シバき、んぐふっ」
デメトリオさんの笑いのツボがわからない。急に噴き出してプルプルと震えている。
「本当に主人がご迷惑をおかけしました」
「男爵夫人のせいではなかろう。先ずは彼が無事に見付かったことを喜ぼう」
「っ、ありがとう存じます」
母の目からポロリと涙が零れ落ちた。ずっと不安なのを我慢していたんだろうな。ほんと父はどやさなきゃと思う。
各国の招待客との昼餐会は穏やかに進んだ。
各国の代表たちは父のことをよく知っていて、今回の事件もそれぞれが情報を入手していた。
男爵家の娘が王族入りすることに、不安を持たれていないかと思っていたのだけど、それもないようで少しホッとした。
昼餐会後に、両国の国王陛下とデメトリオさんと私とで、サロンに集まった。父が連れ帰っている子を引き取る許可を得ようと思って。国を跨ぐのだから細かな手続き等が必要だろうと。
プラグス国王は今回のことについてかなり心を砕いてくださっていて、父の養子となることや、弟子としてチェスの能力を伸ばせるのなら、彼にとってもいいことだと了承してくれた。
そもそも、養子縁組の手続きは父が既にやり終えているとも。
――――いつの間に!?
「彼とは何度か手合わせをしているが、勝つのは一生無理だろう。戦い方の好みまで聞いてくるんだから、本来の実力は計り知れない」
「その戦い方だと、恨みを買うのではと心配なのですが」
「ははははは! 確かに、親族から見れば不安になるだろうが、対戦相手として正面に座らせてもらえているだけでも、光栄なほどだよ。君の父は孤高すぎてもいいのに、皆に慕われている。どこまで計算なのかは分からないが、彼は良き人物だ。私は彼がやりたいと言ったことには両手を挙げて賛成するな」
父はプラグス国王陛下と親密な関係だった。というか、聞くところによると他の国の方々もそれぞれでチェスを打ったことがある、指導してもらったなど、情報が盛り沢山で、父の意外すぎる一面を知ることになった。
午後からのお茶会では、デメトリオさんとの出逢いなどを根掘り葉掘り聞かれた。
「そう、ですね。確かに第一印象はあまりよくなかったかもしれません。ただ、彼が前国王陛下に向ける視線がとても柔らかくて、きっと優しい人なのだろうなと」
「まぁぁぁ、んんっ、素敵ねぇ」
「じゃあ、じゃあ、冷血王子と言われてることは気にしてなかったの!?」
「それが……知らなくて。正直、あまりそういう印象がなくて驚きました」
カサンドラさんに、根掘り葉掘り聞かれたら、ちゃんと答えておかないとサシで問い詰められて、強制女子会になるので、ここで彼女たちを満足させる必要があると言われていた。
皆さんくねくねと悶えてくれているし、満足してもらえたようだった。





