60:納得出来ないけど、納得。
今後の流れとしては、父の捜索部隊を送り出し、プラグス王国の騎士団と協力し捜索にあたること。
私とデメトリオさんは、結婚式の最終打ち合わせなどがあるので、そちらに集中すること。
母は家で待機していてもいいし、王城にいてもいいとのことだった。
「母さん、どうする?」
「家で父さんを待つわ」
少し不安そうな笑顔でそう答えた母。それを見たせいか、陛下の横に座っていたデメトリオさんが立ち上がって母の横に跪いた。
「義母上、もしもを考えて屋敷に騎士を配置してもいいだろうか?」
「はい、ありがとう存じます」
「不安になったら、淋しくなったら、すぐに騎士に言うといい。エマと二人で駆けつけよう」
「っ、あり…………がとう……」
デメトリオさんの優しさが嬉しい。母は張り詰めていた気を緩められたのか、少しだけ涙を流したあとは、なにかを覚悟したような表情になっていた――――。
父が見付かったと連絡があったのは、その二日後のことだった。
「どこにいたんですか!? 無事なんですか!?」
報告に来てくれたデメトリオさんの胸ぐらを掴む勢いで、彼に突進してしまった。
「貧民街の青年の家でチェスをしていたところを発見したそうだ」
「…………はい?」
「いや、うん。そういう顔になるのは分かるが。とりあえず時間がない。義母上にこちらに来てもらってから子細は話すよ」
「はい……」
明日はもう結婚式。私とデメトリオさんには予定が詰まりまくっていた。
昼は各国の招待客と昼餐会。
午後は王族の奥様や同年代のご令嬢たちとのお茶会。
夜は両家での晩餐会。
どれも外せないものばかりだから、今後の流れを話し合うには午前中しかない。
全員が一致団結して対応にあたっていたのに、父だけはその外枠を爆進していた。
「はい? え、誘拐犯を養子にする!?」
「卿が、引かなくてね。既にその青年を連れてこちらに向かっているそうだ」
先日同様、国王陛下の執務室に集まり、話を聞いていた。
どうやら、誘拐犯の少年というのは父が老獪チェスをすると言っていた青年だったらしい。青年と言っても、年齢を偽ってチェス大会に参加していたらしく、まだ十三歳なのだとか。
お母さんの薬代を稼ぐため、チェス大会で賞金を荒稼ぎしていたが、少し前にそれが発覚してしまい、チェス協会から締め出しをくらっていたらしい。そのせいなのかははっきりしないけれど、お母さんは亡くなってしまったのだとか。
父を誘拐したのは、賞金を奪うためだったらしい。理由は、お母さんの薬代で膨らんだ借金を返済するため。
そんなの身勝手じゃない!と思ったけど、父は違ったらしい。
「賞金は彼の借金返済に使い、余った分でただ埋葬するだけで終わっていた彼の母の葬儀を行ったりしていたそうです。そして、彼の心を保つために一緒にチェスをしていた、とのことでした」
「…………父さん」
「あらあら……息子が増えるのかしら?」
「母さん……」
おっとりと首を傾げる母を見て、あの父の妻なだけあるなと、なぜか納得してしまった。





