55:高圧的には駄目。
庭園で出す屋台となると、串焼きなんかもありかもしれない。あとは具材たっぷりのスープの屋台や、クレープ生地にバターとハチミツを塗ってくるくると巻いたスティッククレープの屋台もオススメだ。
知ってはいたけど食べたことのない屋台もあったりで、デメトリオさんたちとワイワイ意見交換しながらお腹いっぱいになるまで食べてしまった。
昨日、デメトリオさんと言い合いしていた文官さんは伯爵さんらしく、初めはちょっと嫌そうに食べてるなって感はあったんだけど、気付いたら誰よりも美味しそうに食べているし、メモをしっかりと取っていた。
何を書いているのかと覗き込んだら、味の感想を何行にも渡って書いていて、面白いおじさんだなぁとちょっと笑ってしまった。
「あー、確かに! スティッククレープの中にスライスアーモンドとか入れて巻いても美味しそう!」
「っ! 勝手に読まないでいただきたい!」
「お前は何を視察しにきたんだ……」
デメトリオさんが呆れ半分に伯爵さんのメモ帳を取り上げて読み、ふむと一言漏らして、ニヤリと笑った。
笑い方が微笑みとかじゃなく、完全に魔王だった。なんか、劇とか本に出てきそうな感じの。
「ピッタルーガ、庭園に出す屋台はお前が決めろ。出店と庭園限定メニューの交渉も任せる。平民に対しての接遇はエマから学ぶといい」
「なっ…………」
「返事は?」
「……はい」
デメトリオさん、謎の抜擢をしないで欲しい。いやまぁ、この中で平民に対する対応は私が適任まであるかもしれないけれど。
妙にしょんぼりしているピッタルーガさんにとりあえず頑張りましょうと声をかけた。
「あっ! あと、今みたいなデメトリオさんの命じ方は、基本的に嫌われます」
「っ!? ぇま――――」
「表面上は傅かれますけど、後で親戚から近隣までボロクソ言われるんで、めちゃくちゃ気をつけたほうがいいです」
いやほんと、ボロクソ言われるからね。よく聞くもん、王城の役人がうんたらかんたら、あれやそれやのこれこれで、とか。
「ぇ、エマ……」
「はい?」
デメトリオさんに呼ばれたので、彼の方を見て返事したのに、なぜか「いや、やはりいい。すまん」と尻すぼみで謝られた。
視察を終え王城に戻り、いつも通りの夜を過ごしていた。夕食を食べ、お風呂に入り、ナイトティーを飲んで寝ようかなとカサンドラさんと話していると、デメトリオさんが部屋を訪れた。
「こんな時間にすまない。少し話したいんだが、いいか?」
「はい、いいですよ」
ソファを勧めるとコクリと頷きつつ部屋に入ってきたんだけど、デメトリオさんの顔が少し浮かない感じ。そういえば夕食のとき、いつもより口数が少なかったかもしれない。
どうしたんだろ?





