54:王都の城下町を案内。
「一緒に、行かないのか?」
「え、あ! 案内ですか?」
「……いやまぁ、そうなんだが」
この歯切れの悪い返事はなんでだろうなと考えていて、もしやデメトリオさん仕事にかこつけてデートしようとか思ってる!? いやまさかね? という疑惑が発生。
ジトッとした視線になってしまっていたらしく、デメトリオさんに多分想像しているのとは違うからな!? と前のめりで訴えられた。
「エマ、街を案内してくれないか? 流石に屋台などは不慣れだ」
「ぬあっ、そういうことですね。失礼しました」
「ふぅん」
隣に座っていたカサンドラさんから漏れ出た『ふぅん』がめちゃくちゃ低かったけど、なんでかな。まだ疑ってるのかな?
流石にもうすぐ夕方になりそうな今からだと遅いので、明日はどうかと提案すると、それでいいとのことだった。
実は、久しぶりに『地元に帰れる』といった感覚に、気分が高揚している。
「おっ、エマちゃん久しぶりだなぁ! どこか有名なとこに嫁入りするみたいに聞いたんだが、どこなんだい?」
王都内で下級の貴族と平民が上手いこと交じり合って生活している区画がある。そこに私の家がある。なので、勝手知ったる庭といった感じではある。
変装し気味のデメトリオさんと、文官さんたち五人にメイン通りの説明をしていたら、良く買い物に行っていた八百屋のおじさんに声を掛けられた。
「あ、おじさん、こんにちは。えっと、こちらのデメトリオさんと結婚することになったの」
「おぉ、男前じゃねぇか! いつの間に彼氏なんて出来たんだい! ウチの倅が悲しんでたぜ?」
「あはは。ケネスくんによろしく言っといてね」
そんな会話を何ヶ所かのお店の人たちと話しつつ、オススメの屋台をついでに聞いて、デメトリオさんたちと回ることにした。
「ここの揚げパンはレモンの皮が練り込まれてて、物凄く美味しいんですよ」
私がご褒美で買う揚げパンの屋台が一番近かったので説明して、人数分を買うことに。支払いは文官さんがしてくれた。ちゃんと経費らしいのでホッ。私の分も入れてもらえてありがたい。
掌サイズの丸っとした揚げパンの周りには砂糖がこれでもかとかけられていて、齧り付くと先ずはザクッジュワッという食感に迎えられる。
そして甘みにほっこりしていると、レモンピールの爽やかな香りが鼻から抜けていって、早くもう一口っ!とついつい勢い良く食べてしまう。
「んーっ! これこれ。美味しいぃ」
「ん。これは美味いな」
貴族の生活は、大きいものを切らずに食べるという行為がほぼない。
デメトリオさんが何かに齧り付いているのを初めて見たから、彼自身もあまりそうして食べたことがなかったんだと思う。
両方の口の端に砂糖をたくさん付けて、まるで幼い子どものようにもぐもぐと食べていた。
あぁ、可愛いなぁと思いつつ、そっと手を伸ばして砂糖を払ってあげると、デメトリオさんの顔が真っ赤に染まってしまった。
――――かわいいっ!





