53:なぜ必要なのか。
デメトリオさんって変なとこで恥ずかしがるなぁと思っていたら「ところで、図書館で何をしているんだ?」と彼に聞かれた。
最新版の貴族名鑑を見に来たこと、重たいのでここで読んでいることを伝えた。
「よくこんなうるさいところで読めるな」
「程よい雑音の中にいるとなんだか落ち着くんですよ」
デメトリオさんが、一瞬だけ微笑んで「そうか」と言うと、周りにいた文官さんたちが、まるで天変地異が起きたかのように驚いた顔をした。
あぁ、デメトリオさんって本当に無表情が標準装備だったんだねぇ、と妙な感慨深さを感じた。
庭園で出逢ったばかりはそうだったもんね。
「デメトリオさんたちは、何の建て替えの話をしていたんですか?」
聞かせられない話なら、そもそもこんなところで話さないだろうし、好奇心とか野次馬的な気持ちで聞いてみた。
「王国立庭園のことで、ちょっとな」
「おじいちゃんとのとこです?」
「ん」
この一年はあまり行けてないけれど、そんなに老朽化はしていなかったと思う。
でも確かに人は少なかった。そしてそのおかげで、おじいちゃんがいてもきっとバレてなかったんだろうけど。
ただ、普通にデートしてるっぽい恋人たちとかはいた気がする。ポツポツと。
入場無料だから、ラフなデートやピクニック気分を味わいたいってときに、丁度いい場所というイメージがある。あとは私やご老人たちの散歩場所。
「そっかぁ。確かおじいちゃんの思い出の場所でもあるんですよね?」
「……あぁ、そうだな」
その思い出が建て替えによって消えてしまうのは、ちょっと淋しい。だからこそデメトリオさんは『老朽化』ならと妥協はしていたのかもしれない。
お仕事に口出しはしたくないので、これ以上は聞かないようにしようかと思っていた。
「エマはどう思う?」
「へ……えっと…………」
まさか聞かれるとは思っていなくて、ちょっとモゴモゴしてしまったけど、素直に思ったことを言ってみた。
「えっと、そもそも本当のところはなんで建て替えたいのか、建て替える必要があるのか、建て替えたことでなぜ集客が見込めると思うのか、そういうのがちゃんと理由付けされていれば挑戦することも大切かとは思います」
聞いている限りは、ただ単に建て替えたいみたいな雰囲気だったから、ちょっとだけ賛成はし辛いなぁと思っていた。
「あと、庭園なんでそこまで人が溢れるというのも無理な気がします。ガゼボや付属の建物を建て替えるとかではなくて、中でイベントやればいいじゃないですか」
「……イベント? どんな?」
「ど、どんな!? え、あ、この前のバレンタインでもいいいし、春はお花見用で屋台出したり?」
「ふむふむ。屋台はどんな?」
デメトリオさんが前のめりに聞いてきたけど、貧乏極めていた私は屋台のものは年に数度しか食べたことがない。
「市場調査とかするといいかもですね」
「なるほど。早速行こうか」
行動が早いなぁ、文官さん達も大変ね。と思っていたら、デメトリオさんがじっとこちらを見つめてきたので「いってらっしゃい」と笑顔で答えたら、なぜか衝撃的な顔をされてしまった。





