52:冷血王子な様子
私の向かい側に座っていた騎士さんに、声を落として聞いてみた。
「デメトリオさんって『氷結殿下』みたいな二つ名がありましたよね?」
「ひょうけ…………あ、冷血王子ですね」
「あっ、それだ」
五メートルほど先の本棚にいるデメトリオさん。近いからバレちゃうかなと思っていたけど、こちらに背を向けているし、目の前の騎士さんが丁度いい感じで盾になっているので、私に気付いていないようだった。
騎士さんには『しー』っと唇に人差し指を当てたら、くすりと笑って頷いてくれたのでたぶん大丈夫。
「殿下、そうは言いますが――――」
「くどい」
デメトリオさんのピシャりとした一言に、流石に図書室内がシンと静まり返った。
「っ、ですが……あの建物は、前陛下が…………」
「祖父が力を入れていた事業なのは知っている」
なんの話なんだろう?
老朽化はそこまでしていないけれど、建て替えが必要かもしれない建物。
おじいちゃんが力を入れていた事業。
王族か国の威厳の誇示になる。
「新しくなれば、またたくさん国民が利用すると思うのです」
「なんでもかんでも新しければいい、ではないだろうが。話をすり替えるな」
国民がまた利用してくれる?
つまりいまは過疎化してる何かの事業の建物、ってことかな?
いやまぁ、話はちょこちょこすり替えて来てる感はあるよね。結局、文官さんは何を求めているんだろうか。
わからないなーと思いつつデメトリオさんの方を見ていたら、カサンドラさんが本を十冊ほど抱えてこちらに歩いてきた。
「あら、どうも」
「なんだいたのか――――」
眼力が天元突破の真顔カサンドラさんと、ご機嫌ナナメ感で無表情冷血王子デメトリオさんの邂逅。
そして、きょろきょろしだすデメトリオさん。騎士さんがスッと立ち上がってデメトリオさんに臣下の礼を執ったので、丸見えになってしまった。
「っ、エマ……も、いた、のか…………」
デメトリオさんの顔が真っ赤になった。クールな感じや、ちょっと厳しい言葉遣いのデメトリオさんも好きだけど、やっぱり可愛いほうが好きだなと思う。
「真剣そうに話してたから、挨拶は控えてました。ごめんなさい」
「いやいいんだが…………聞こえていたよな?」
「うん。口外はしません」
「いや、それも別にいいんだが……見られたか……」
何か見たっけなぁと考えていて、もしやいまの言い合っていた様子のことかと聞いてみると、デメトリオさんにコクリと頷かれた。
どこか、恥ずかしがる要素とかあったかな? と首をひねっていたら、カサンドラさんがこっそり耳打ちしてきた。
「高圧的な態度を見られたのが恥ずかしいんですよ」
「え?」
「エマ様の前では、かなり抑えていますので」
――――そうなの!?





