51:氷結だっけ?
カサンドラさんと雑談しつつ、図書館に入った。
今日も相変わらず騒がしい。
王都内の市民用図書館は、会話は極力最低限にするよう貼り紙がされている。本を読んでいる人の邪魔をしないというのが大きな理由だ。
でも王城の図書館は違う。
王城の図書館は、基本的には文官さんたちが資料を探しに来たり、研究員さんたちが資料を探しに来たりしていて、常に何かの議論や雑談が飛び交っている。
そして、基本的には図書館内で本を読む人はおらず、貸出がメインだ。
「ええっと……あ、あった」
貴族名鑑は毎年更新されており、存命の各家当主のことなどは少し情報が書いてあったりする。あとは、国に大きく貢献した個人のページなんてものもある。
妃教育のときに軽く読んだものの、今年に入ってからは読んでなかった。
掌くらい分厚い貴族名鑑を抱え、窓際にある机に向かった。
貸出メインではあるけれど、中身を確認したり書き物をするために、数人で使える大きめの机とイスがたくさん用意されている。
「ここで読まれるのですか!?」
「え、うん」
なんで驚かれたのかと思ったら、こんなうるさい場所で覚えられるのかという心配だったらしい。
貴族名鑑、物凄く重たいから部屋に持って帰るとか嫌だ。それに、割とうるさい環境で本読むの好きなのよね。
「カサンドラさん、待ってる間に何か本探してくる?」
「そうですね、少しお側を離れます」
「うん。いってらっしゃい」
流石に騎士さんは側を離れたりは駄目だろうから、イスを勧めた。
デメトリオさんの指示もあって、護衛スタイルは私の希望に合わせていいようになっている。なので、騎士さんたちも私の身に危険がない程度の願いは、割とスルッと受け入れくれる。
こう、おじいちゃんとチェスしていたときみたいに、陰に隠れて護衛されてたり、真後ろに佇まれたりは結構苦手だった。
デメトリオさんには申し訳ないけれど、おじいちゃんと私の真横に立って、無表情でガン見されていたので、初めの頃は『この人、苦手だなぁ』とか思っていた。
お茶は美味しかったけどね。
図書館内の雑音に耳を傾けつつ、貴族名鑑を読み進めていると、図書館内が一際騒がしくなった。
「殿下! ですから、建て替えは威厳を示すためにも必要です!」
「威厳のためなら不要だ。老朽化であれば考える」
――――あ、デメトリオさんだ。
文官さんと議論というよりは、モメているっぽいデメトリオさんを発見した。
文官さんは必死になにかを言い募っているけれど、デメトリオさんはズバッと切り捨てて、冷たい視線を向けていた。
そういえば、冷酷殿下? 冷血殿下? ん? 氷結だっけ? なんかそんな二つ名があったような――――?





