47:助けが来ないということは?
ベッドの中でデメトリオさんに抱きしめられて、なぜか頭頂部の匂いをスンスンと嗅がれている。
昨日お風呂入ってないんですけど?
カサンドラさんに助けてほしいけど……っていうか、カサンドラさんどうなったのかな? 渡せたかな? 想い伝えられたかな?
「んむゔ……」
「エマ?」
上手くいってほしいけど、陛下の立場とか色々あるんだろうなぁと思っていたら、変な唸り声が出ていた。
「い、嫌だったか? そんなに……」
へ? と顔を上げると、眉をしょんぼりと下げたデメトリオさんの、ちょっと情けない表情に申し訳ないけれど笑ってしまった。
「あはははは! 違いますよ」
「本当か?」
「はい」
デメトリオさんの胸板に顔を寄せてスリッと動かすと、彼がビクリと身震いした。
「それはまずい。とてもまずい」
なにがまずいのかと聞いても、まずいとしか答えてもらえなかった。
デメトリオさんの匂い好きなのになぁ。って、あぁこれか。でも頭頂部っていい匂いとかするのかなぁ?
上半身を起こしてベッドの中で横向き匍匐前進のように藻掻きながら移動して、デメトリオさんの頭を嗅げる位置までずり上がった。
デメトリオさんの頭にそっと手を添え、数回ほど撫でてから鼻を近づける。
――――オレンジだ。
いつだってオレンジの匂いがする。甘酸っぱくて、ちょっとだけスパイシー。
この匂いって落ち着くなぁと、デメトリオさんの頭を抱き込んで、彼がさっきしてくれていたように頭を撫でつつ、手櫛で髪の毛を整える。
なんだか愛おしい気持ちでいっぱいだ。
「…………ざとか?」
「はい?」
くぐもった声で何かを言ったデメトリオさんに聞き返したら、頭を撫でていた手をパシリと掴まれた。
「わざとか? と聞いた……」
私を見上げるように顔をずらしたデメトリオさんの目は、めちゃくちゃ据わっていた。
あと、顔の半分が胸に埋まっている。埋めるほど大きくはないけど、デメトリオさんの頭を抱きかかえていたせいで、押し当てたようになってしまっていた。
これはやらかした、と思った瞬間に素早く起き上がったデメトリオさんに両方の手首を掴まれ、ベッドに押し倒されたような格好に。
「デメトリオさん……?」
「…………ハァ。キスしていいか? 触れる程度にしておくから」
「え、はい」
最近は、視線が合ってなんとなく雰囲気を感じてキス、というのが多かった。許可を求められたのは、なんだか新鮮だった。
「んっ…………っ、は……」
何がどう触れるだけのキスなのだろうか、というくらいにねちっこかった。深さはそれほどないけれど、長い。息苦しいなぁと思い始めたとき、部屋のドアがノックされた。
「…………チッ。入れ」
デメトリオさんが私に毛布を掛けて、彼は起き上がってベッドに座った。
カサンドラさんの助けだ!と期待したものの、入ってきたのは別の侍女さんだった。
「国王陛下より伝言でございます」
「珍しいな。なんだ?」
「本日の定例会議と執務は休まれるそうで、デメトリオ様に会議出席をとのことでした」
「は?」
――――今日、休む?
「それから……エマ様にも陛下から伝言なのですが…………」
侍女さんがデメトリオさんをチラッと見て、すぐにこっちに視線を戻した。
「ここでいいですよ。何ですか?」
「はい、そのカサンドラは休ませる、とのことです」
「っ――――!」
危ない! 叫ぶとこだった。
「わ、分かりました。明日もしっかり休ませて、明後日から勤務でと伝えてください」
「畏まりました」
助けが来ないと思ったら、そういうことになってたのね!? 休ませるってことは…………!?
え、陛下は婚前のあれやそれはアリなの!? え、デメトリオさんも実はアリなの!?
――――えっ!?





