45:恋人の祭典
夕食後、エマが部屋で待っていてくれと言い、カサンドラと何処かへ消えていった。
部屋のソファに身を投げ出しぼーっとしていると、部屋のドアがノックされた。俺の返事のあとに、エマが扉の隙間からピョコッと顔を出した。
可愛すぎるだろう、その行動。と、心の中で悶えつつ、平静を装って使用人たちを全員下がらせた。
「あのね、もう、ほとんどバレてると思うんだけど……」
「んー。たぶん、そうだろうな、程度だ」
過剰な期待はしたくない。
横に座るよう言うと、エマがコクリと頷いて隣に座った。後ろ手にカサカサと何かを持っているが、美味いことスカートで隠している。
「これ、バレンタインのプレゼントです」
エマがズイッと差し出してきたのは、両手より少し大きめのラッピングされた何か。
バレンタインは何かと説明されたので知っていると伝えると、少ししょんぼりして「やっぱり、全部バレてた」と呟いていた。
「ん。開けていい?」
「はい」
リボンを解いて袋の中を覗き見ると、一粒ずつ包装された果物のようなものが見えた。何かにコーティングされていそうなことを考えると、先日話していたフルーツ飴だろう。
一つ手に取り光にかざすと、宝石のようにキラキラと輝いていて見えた。
これを作るために、あんなに早起きしていたのか。俺に食べさせたくて。俺のために、エマが作った。
こんなに幸せなことがあるのだろうか。
「エマ、ありがとう」
「っ、うん……あのね………………」
エマが何かを言おうとして、ハクハクと口を動かしたり、しょんぼりした顔になったり、なんだか忙しそうだった。
まだ、昼前のことを引きずってしまっているんだろうと思った。
「食べていいか?」
「あっ、うん」
「確かちょっと舐めてから噛むのがおすすめなんだよな?」
先日聞いたことを確認すると、嬉しそうに笑ってくれた。うんうんと何度も頷いて、イチゴやパイン、オレンジも美味しいが、ブドウはバツンと弾ける感覚が楽しいんだと、前のめりで教えてくれた。
――――あぁ、可愛い。
手にとっていたイチゴから食べたが、食感が本当に楽しかった。パリパリとした飴と、甘酸っぱいイチゴの柔らかさ。これはハマるだろうな。
次に手に取ったブドウは、串に二粒刺さっていた。
一粒だけ引き抜いて歯を立てると、パリッとした飴の次に、バツンと弾けるブドウ。口の中に広がる瑞々しさに驚いていると、こちらを覗き込んでいたエマの顔が『美味しい? 美味しい!?』と言っていた。
二粒目を引き抜き口に含んで、エマに顔を寄せた。
「っん……ふぁ…………」
「ん、ほら、噛んで」
口移してブドウを渡すと、顔を真っ赤にしてパニックを起こしかけていた。やりすぎたか? でも、まぁ……いいか。
「噛んで」
もう一度言うと、真っ赤な顔のままで頷きながらブドウをバツンと噛んだところで、すかさずキスをした。
「美味いな?」
「…………っ、は…………い」
涙目で必死に呼吸をしようと頑張るエマが可愛くて仕方ない。
「これは、オレンジか」
オレンジは水気が多いせいだろう。飴が少し柔かったが、それでも美味かった。
エマの口の端から垂れた果汁を舐め取り、二人でオレンジの匂いに包まれながら、何度もキスをした。
「エマ、愛してる」
「っ……私が言いたかったのに」
真っ赤な顔で、オレンジのような瞳を潤ませたエマ。
ああ、エマは『恋人の祭典』の意味をちゃんと理解していたのか。ほとんどがイベントと化していて、仲のいい友人に菓子を渡すだけのものになっていたのに。
「ん、聞きたい」
そう言うと、エマの顔がさらに真っ赤になっていた。
…………頼むから、気絶だけはしないでくれよ?





