42:もっと、ちゃんと
騙してごめんなさいと謝ると、デメトリオさんがクスクスと笑いながら頭を撫でてきた。
どうしたのかと見上げると、なんというか『仕方のない子だな』という表情。
「エマの嘘は、俺を裏切るものではないと、俺は分かってるからな」
「っ、はい」
デメトリオさんの言い方は、何か含みがあるように思えた。頷いて続きの言葉を待つ。
「近しい使用人たちも、それが分かっているから嬉々として手伝っているようだしな。だが、それを利用したり悪しざまに言うものがゼロとは限らない」
そうか。私は善人ばかりだと思っていても、本当にそうだとは限らないものね。
デメトリオさんは、だから全員を疑えと言っているわけではないと言った。ただ、自衛することは忘れないように、付け入る隙をあまり与えないように、とのことだった。
「それで、実家で何をしていたんだ?」
「夕食のあとでもいいですか?」
「ん、分かった。執務に戻るよ」
もう一度ごめんなさいと謝ると、デメトリオさんが額にキスをくれた。
「俺も、せっかく楽しそうな気分を壊してすまなかった。また後でな」
「はい」
執務に戻って行くデメトリオさんを見送って、部屋に戻った。ソファに座った瞬間、自然と涙が溢れてきた。
デメトリオさんが優しすぎて、苦しい。
もうちょっと上手にサプライズしたかった悔しさもあるけど、それ以上に私を傷つけないように注意をしてくれた彼の優しさに報いたいなと思った。
カサンドラさんは、そこまで気にしなくて大丈夫だと判断した自分のせいだと言うけれど、そこは主人という立場にある私が『したい』と言ったのだから、私の責任なんだよ。カサンドラさんのせいになんてしたくない。
「エマ様、王族の一員になるためにと、この一年で詰め込まれたことに、エマ様はしっかりと応えられています。陛下も殿下も、そこをとても評価されていました。だから、今回のような『やりたい』という気持ちは抑え込まれないでください。主人の願いが叶うように周囲を整えるのは私たちの役目です。どうか」
カサンドラさんが真剣な顔でそう言ってくれて、私って本当に恵まれているなと思う。
デメトリオさんの信頼も、彼女たちからの信頼も、裏切りたくない。
もっともっと、ちゃんと王族の一員になるということを認識して行動しないと駄目だなと痛感した。





