41:王城を抜け出して
二月一四日の早朝。
カサンドラさんと二人、こっそりと実家に帰って、キッチンを占拠している。
王城の厨房は朝食の準備で忙しいから、流石に邪魔をしたくなかった。
「さ、始めよ!」
「ええ」
先ずは果物の水分取り。これをサボると、ベチャベチャになってしまう。
水気が多いものは、前日に母が下処理してくれていた。とても助かる。
「パイナップルとかカット系はほんと失敗しがちなのよねぇ。懐かしいわね」
母のその言葉にうんうんと頷いていると、計画時も失敗しやすいと聞いていたけれど、それならなぜ敢えてカットフルーツもいれるのかとカサンドラさんに聞かれた。
「え? だって陛下はパインが好きなんでしょ?」
「っ……はい」
そう言うだけで、ちょっと俯くカサンドラさんが可愛くてたまらない。
気を取り直して、水気を取ったフルーツをピンチョス用の串に刺していく。
イチゴなど少し大きいものは一粒だけ、ブドウや小さいものは二個三個と調整しつつ刺していく。
下準備が終わったら、飴作り。
お鍋にグラニュー糖を入れて、少量のお水を上からかける。全体に水分が行き渡ってから火にかけて、しっかりと溶かす。この時に絶対に混ぜたりしてはいけない。気泡が大量に入ったり、艶やかさが損なわれる。これで何度しょんぼりしたことか。
「うん、良さそう! どんどん絡めていこう」
カサンドラさんと二人でせっせと果物たちを飴でコーティング。
果物を下にしてピンチョスの串を持ち、くるくると回して余分な飴を落とすことも忘れてはいけない。
「このくらいでしょうか?」
「うん! 大丈夫そう。バットに置いてね」
「はい」
お昼には完成させて渡したいので、コーティングし終えてバットに並べたら、王城に戻る。なぜなら、王城には大きな氷が置いてあるアイスハウスがあるので、そこにちょっと入れさせてもらいたいのだ。冷たい方が美味しいから。
今日の朝食は要らないと伝えていた。外出することも伝えていた。そして、使用人さんたちのかなりの数がグルだった。おかげでデメトリオさんは、私がいないのは『ルシエンテス男爵が国外のチェス大会に出るから見送りにいく』という理由だと思っていたようだった。
「ん? もう帰ってきたのか? 卿とは挨拶できたか?」
「あ、はい」
厨房のアイスハウスに立ち寄ってから部屋に戻る途中で、デメトリオさんと出会った。
騙して非常に申し訳ない。
父は普通にだらっと家で寝てました。仕上がったフルーツ飴を誰よりも早く母と食べてました。そこは本当に、ごめんなさい。
「……なんで、後ろめたそうなんだ?」
「え、あ……」
「エマは本当に嘘が苦手だな」
仕方なさそうな、ちょっと呆れ気味みたいな、ため息混じりの微笑みをデメトリオさんに零されてしまった。
――――あれ? これ、なんかバレてない!?





