4:おじいちゃんからの手紙
「国王陛下が崩御されました。以前お渡しした封筒を開封してください」
超絶貧乏かつ名前だけの男爵家の玄関に、王城勤めであろう文官みたいな人と、近衛騎士の格好をしたデメトリオさんが立っている。
挨拶とか全てをすっ飛ばし、文官さんにそう言われて、デメトリオさんをじっと見る。
彼がここにいるということは、おじいちゃんは……本当に国王陛下!?
「え……ほんとに?」
「はい」
私の消え入りそうな声に、文官さんが何の感情も含まないような声で答えた。
「おじいちゃん…………死んだの?」
「はい」
文官さんの無機質な言葉に、胸が締め付けられた。
つい先月、デメトリオさんに連絡するから待つようにと言われたばっかりだった。体調が悪いのは理解していたけど、こんな連絡は欲しくなかった。
「っ…………」
ぼたぼたと落ちる涙の止め方が分からない。
もう、あの明るい笑い声も聞けない、ちょっといじけて口を尖らせる顔も見れない。
もう、かすれてるけど柔らかな優しい声で『エマちゃん』と呼んでもらえない。
「っあ……ぅ……」
泣いている私に、文官さんは早くして欲しいと言いかけていた。でも、デメトリオさんがズイッと彼の前に出てきて言葉を遮って、私を柔らかく抱きしめてくれた。
「不躾に触ってすまない。少しは落ち着くだろうか?」
デメトリオさんの胸に縋ってわんわんと、子どものように泣いてしまった。
彼は私の背中をゆっくりと擦りながら、「慌てなくていい、泣いていい」と柔らかな声で囁いてくれた。
いつからか、おじいちゃんと彼と過ごす日が、本当に楽しみになっていた。彼に対しては、淡い恋心みたいなものが、生まれていたと思う。いま抱きしめられて、やっとそれに気が付いた。
国王の護衛なんて出来る人は、きっと高位の貴族。
――――あまりにも、地位が見合わない。
一瞬にして、恋が散った瞬間だった。
「っ………………ごめんなさい。直ぐに封筒を持ってきますね」
どうにか涙を抑えて、デメトリオさんにお礼を言ってから走って部屋に戻った。心臓が破裂しそうなほどの鼓動を奏でているのは、全力で走ったせいだと思いたい。
我が家にはサロンなんてものはないので、二人をリビングに通して、一緒に封筒を開けることにした。
封蝋を剥がし、手紙を取り出す。国王陛下だったおじいちゃんからの手紙だ、一体何が書かれているのかと、不安ばかりが渦巻いていた。
カサリと開いたそこには、どんよりとした空気の私とは真逆の、いつものおじいちゃんのテンションで書かれた文面があった。
『エマちゃんへ。
驚かせてすまんねぇ。もう聞いとるとは思うが、実はワシ王様だったんだよねぇ。ビビッた?
んで、これ読んでるってことは……ワシ、死んじゃったか。まぁ、何年も患ってたからのぉ。最近ヤバいなぁとは思っとったんじゃよ。と、まぁ無駄話はここまでで。
ここから本題なんじゃがね。
ワシが死んだら、遺言状の開封の儀があるんよねぇ。エマちゃんに譲りたいものがあるんだけどさぁ、エマちゃん実は結構に恥ずかしがり屋さんだし、偉そうなのが集まった場とか、あんまし参加したことないじゃろ? 侍女服とかで参加してええよ。あ、参加は絶対じゃからな?
デメトリオ、あとヨロ』
――――軽っ。