38:オムライス
デメトリオさんたっての希望で、私の部屋で二人でお昼ご飯を食べることになった。
カサンドラさんに運んでもらい、オムライスとサラダとスープをテーブルに並べると、デメトリオさんが目を見開いて驚いていた。
「チキンライスの上にオムレツ?」
「はい!」
この反応は、知らなかったっぽい。
カサンドラさんや厨房の料理人さんたちの反応からも、なんとなく予想はしていた。
「先ずはナイフで、オムレツの上の方をスッと横に切ってみてくさい」
「ん、分かった」
「今入れた切り込みから、上下にオムレツを開いてみてください」
「ん? こうか?」
少し恐る恐るといった動きで、オムレツを開いてくれた。
「おおおおぉ! 凄いな。なんというか……卵が輝いていて美しいな」
「これ、東方の国でたんぽぽオムライスって呼ばれているそうです」
「たんぽぽか」
父が国外に遠征したときオムライスにドハマリして、地元の人から作り方を教えてもらったらしい。家に帰ってきてからは、アレを再現するんだとか言って、母と三人で毎日のように作っていた時期があった。
「面白いな」
「本当はたんぽぽだけど、向日葵にも見えるから、デメトリオさんに食べてほしくて」
そう言うと、本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
ただ、問題はここからだ。
デメトリオさんにオムレツを開いて欲しくて毒見を通していなかったこと、今からカサンドラさんが一口だけ食べると伝えた。
「いやだ……と言っても、どうしようもないもんな」
「はい。ごめんなさい」
「エマのせいじゃないさ」
デメトリオさんがため息を吐きつつも、カサンドラさんにお皿を差し出した。
ちょっと予想外だったようで、カサンドラさんが目を見開いていた。正直、私も予想外だと思ってしまったのは、内緒にしたい。
「では失礼いたします……んっ。はい、美味し……いえ、大丈夫です」
「……ちっ。ありがとうな」
舌打ちはしたものの、感謝は伝えるデメトリオさん。感情が忙しそうだなと思ったら、笑いが漏れ出てしまった。
「なんだよ……」
「ふふっ。いえ、食べましょう?」
「ん」
デメトリオさんが卵とチキンライスを一緒に掬い、口に運んだ。モグモグと咀嚼して、ピタッと止まって、ゴクリと喉仏を動かしながら飲み込んだ。
変なものは入れてないし、味付けも普通だけど、大丈夫かな?
「エマ……」
「はい」
「美味い。驚くほど美味い」
そう言うとデメトリオさんは、美しい所作のままなのに、いつもの三倍くらいの速さでオムライスとサラダやスープも食べ終えてしまった。
緩んだ表情や、食べるスピードから考えて、たぶん気に入ってくれたんだと思う。ずっと無言で食べてたから、ちょっと不安だけど。
「エマ、その……もしでいいんだが……」
「はい?」
「その、良かったら、時々でいいからこれをまた作ってくれないか?」
「はいっ! ぜひ」
少し照れたようにそう言ってもらえて、久し振りに作ったオムライスは大成功だったんだなと、心底ホッとした。





