35:モグモグ
王城での新生活は、思っていたよりも順調に進んだ。
ベッドがふかふかで、物凄くよく眠れるし、ご飯はありえないほど美味しい。
そして、毎朝デメトリオさんと挨拶が出来る。
「ん…………はよ」
デメトリオさん、わりと朝が苦手らしい。よく目をシパシパさせている。
あと、食べものの好き嫌いを知った。本人は隠してるっぽいけどね。
サラダに入っているプチトマトをよく避けながら食べているのだ。今も。
葉ものを途中まで食べて、ほんの少し一時停止してからフォークでプスッと刺す。そしてまたほんの少し一時停止してからパクッ。そのあとの咀嚼時間が妙に長い。
表情は変わらないけど、なーんか苦手な空気が漏れ出ている。
――――うん、かわいい。
嫌いなものでも残さないデメトリオさん、凄いなぁと思う。父さん、端っから食べない宣言するもんなぁ。
私は食べものの好き嫌いが本当にないから、気持ちがわからないのよね。
あ、デメトリオさんに聞いてみるのもいいかもしれない。
「デメトリオさん」
「ん?」
「嫌いなものもちゃんと食べてるけど、なんでですか?」
「…………え」
本気で驚いた顔をされてしまって、笑いそうになってしまった。
ただ、なんでだろうと気になったのだと伝えると、そうじゃないと言われた。
「いまの言い方だと、俺がいまさっき嫌いなものを食べた、みたいな感じが……」
「え、プチトマト嫌いなんですよね?」
「なんでバレた」
「っ、あははははは!」
我慢できなかった。やっぱり隠してたんだ! なにそれかわいい。
ここ最近、デメトリオさんの何かを知る度に『かわいい』が溢れてくる。カサンドラさんと話してて分かったのは、それが『恋』というものらしい。
「笑うなよ」
「あはっ。うん、ごめんなさい。偉いなって思って」
「子どもみたいに……」
「あっ、違うんです。父は絶対に食べない!ってよく言うから」
「んはは、卿は言いそうだ」
デメトリオさんはなんだか納得したように頷いて、なぜ食べるのかを教えてくれた。
自分たちが食べるものは、国民が作ってくれたもので、しかも日常の食費は予算が組まれているものだから、嫌いだで食べないという選択肢はないのだとか。
「もちろん、体質によって食べられないものは別だがな」
「そこは別ですよね、よかった」
他に嫌いな食べものはあるのかと聞くと、怪訝な顔でなんでだと聞かれてしまった。
「え、好きな人のことって、なんでも知りたいじゃないですか?」
そう言って、サラダの中に入っていたコーンをフォークで掬い、パクッ。甘くて美味しいなとモグモグしていたら、デメトリオさんが耳を赤く染めて、顔を横に向けていた。
「エマは、本当に煽りグセが酷いな」
――――ええっ?





