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【電子書籍11/15】 『王太子の嫁な!』と遺言状に書いてありました。  作者: 笛路 @書籍・コミカライズ進行中


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34/81

33:呼んでほしい

 



 ■■■■■




 エマが王城に引っ越してきて四日。

 部屋を一つ挟んで好きな人が隣にいるというのは、とてつもなく苦しいのだと知った。


 ともに夕食を摂り、おやすみを言って部屋に戻る。

 きっと今ごろは部屋でゆっくりしているのだろう、きっと今ごろは風呂に入っているのだろう、きっと今ごろは湯冷まししたり侍女たちとおしゃべりして――――と、妄想が止まらない。


 さっき別れたばかりだろう!と自分に言い聞かせ、風呂で冷水を浴びた。

 

「寒っ……」


 春になったとはいえ、風邪をひくなと湯船に滑り込む。

 酷く、馬鹿な話だと思う。

 エマと初めて対面したとき、アンバーの瞳が太陽の光に反射して、瑞々しいオレンジの果実ように輝いていた。

 彼女の雰囲気と合っていて、とても綺麗だった。


 それからだったと思う。

 オレンジを見る度に彼女を思い出した。いつの間にか身の回りの香りを発するものが、全てオレンジになっていた。

 

 湯船から香る、オレンジオイルの匂いに胸や腹が締め付けられる。




 風呂から上がり、部屋のソファーに座ってぼーっとしていたときだった。

 部屋と主寝室を繋ぐ扉の向こう側に、人の気配。

 真面目に騎士をやっていた。だから相手の発する空気もなんとなく分かる。

 敵意はない。


 駄目だと分かっているのに、身体が勝手に動いてしまう。

 扉を押し開くと「ひゃっ」と可愛らしい声が聞こえた。


「なにをやっている」

「あのね、デメトリ――――」

「リオ」


 エマはすぐ『デメトリオさん』と呼ぶ。別にいつもそう呼んでほしいとかではないが、二人きりのときくらいはリオと呼んでほしい。

 だからいつも遮って『リオ』だと伝える。そうすると、エマがハッとした顔のあとに、必ず少し恥ずかしそうに俯いて『リオ』と呼んでくれる。

 それだけで、抱きしめてキスして、ベッドに連れ込みたいくらいには、幸せな気持ちになれる。

 だから、呼んでほしい。


「あのね、その……少しね、淋しくて。ちょっとだけね、リオと話したかったの。ごめんなさい」


 どんどんと言葉尻をすぼめて、最後には泣きそうな声で謝るエマに、選ぶ言葉を失敗したと気が付いた。


「っ、くそっ」

「ごごごめんなさっ」

「違う。謝らねばならないのは俺だ」


 怯えた表情になってしまったエマをふわりと抱きしめて、どの部屋に移動しようかと脳内会議をした。

 

 ――――エマの部屋だな。


 ここで俺の部屋に引きずり込んでも、主寝室のソファに座らせても、なんか色々終わる気がした。

 主に、俺の尊厳とか威厳とか、そういったものが。


 エマの額にキスをして、手を繋ぎ移動する。エマが「えっ、え、あのっ、リオ……」と心細そうな声を出すので、また額にキスをした。

 今は唇にする勇気というか根性がない。


 エマの部屋に到着し、二人でソファに座る。

 

「リオ?」

「ん……今は…………ダメトリオと呼ばれたい」


 意味がわからないが、なぜかそう口から出てきた。

 エマはキョトンとしたあとに、プッと吹き出して、アハハハと大きく口を開けて笑ってくれた。

 

 ――――良かった、笑った。




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✾ 10/25シーモア先行配信! ✾


『王太子の嫁な!』と遺言状に書いてありました。
貧乏男爵令嬢と王太子殿下の焦れったいほどの両片思いを強制成就!?
書籍表紙


表紙絵はm/g先生!
デメトリオさんがとにかくカッコイイ! そして、エマたんがもう撫で回したいくらい可愛い!

(作者がキモいのは横に置いて……!)

♣ 王太子の嫁な!ちゃん ♣
リブラノベル様より、11/15 配信です。コミックシーモアは、10/25先行配信!
ぜひぜひ、お手元に迎えていただけると幸いです。


▷▶▷ シーモア

― 新着の感想 ―
よっ!ダメトリオ! 悶々とするダメトリオさん可愛い(´・∀・)
ダメトリオw 煽られまくってペラッペラの理性はいつ崩壊するのか?! 無自覚な天然煽りエマ、気をつけて〜
隊長!仕事が早いです! ブフォッ(o゜∀゜)・;゛.、 ちょうどお昼時、リアルにやばかったです デメトリオさんはダメトリオさんでもかわいいですね♡ エマちゃん笑ってくれてえかったねー♡ さて、あと何…
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