31:夫婦喧嘩は犬も食わない
結婚式の準備は、順調に進んでいた。
私たちの式は、国を挙げてのものになる。招待客は国内外から沢山来ることになっており、それらの招待状や会場での席次など決めることが大量にあるため、毎日のように王城通いをしていた。
「王城に引っ越しなさい」
昼食後にお茶を飲みながら、デメトリオさんと会議の時間の確認をしていた時だった。同席していた国王陛下がそう言うと、執事さんを呼び寄せて手紙の準備をと伝えていた。
「エマ嬢の部屋はできているのだろう? デメトリオ」
「ええ、ほとんど初期のままですが」
好きな家具や寝具類に変えていいと言われたけど、別に『これがいい!』というものがないので、クッション類だけ増やしてもらっていた。
寝るときに抱きしめるの、好きなのよね。
「えっと、今日……ですか?」
「ぶふっ。大丈夫だよ、エマ嬢の都合のいい日で。ただ、通いは時間の制約が多いし、疲労もたまりやすいだろう?」
確かに、馬車での移動に疲れを感じることは多い。王族専用の馬車は座面がフカフカなのでお尻は痛くならないけど。
「不安にさせたね、すまない」
どうやら私は、とても情けない顔になっていたらしい。それを見て吹き出した国王陛下にはちょっと抗議したいけども、謝ってくれたしいいかな。
国王陛下に、拒否権がないように感じてしまっているかい?と聞かれた。その言葉に頷くと、ちゃんと断っていいんだよとも。
「いや、いまの言い方は完全に命令でしたが?」
「んー? そうかい?」
デメトリオさんがボソリとタチが悪いと漏らすと、国王陛下が苦笑いしながら不本意だなぁと呟いていた。
家に戻り、国王陛下からの手紙を父に渡すと、横にいた母が覗き込んで一緒に読んでいた。
「王城に引っ越すようにだってよ。明日行く――――いひゃいょ」
なんでみんなこんなに気が早いんだろうか。父に関しては、当初からこんな感じだったけども。
母が鬼神のような顔で父の頬を抓っているのはどうしたものか。
「まだ一緒にいられると思ったのにっ」
「僕がいるよ?」
「……いっつもいっつも! どっかよその国に行ってるじゃないっ!」
――――あちゃぁ。
夫婦喧嘩が始まってしまった。こうなると長いので部屋に逃げるが一番だ。
カサンドラさんにいいのですかと聞かれたけど、犬も食わないヤツだから放置で大丈夫だ。どうせ明日の朝にはラブラブいちゃいちゃしてるから。
「今日の夕飯は部屋で一緒に食べよ?」
「はい」
二人で一緒のベッドで寝たあの日から、カサンドラさんはこういったお願いにも付き合ってくれるようになった。
そして、二人でこっそりと恋バナをしては悶えて、きゃっきゃと騒いでいる。
毎日が凄く凄く楽しい。
デメトリオさんと二人きりで過ごせる甘々な日々は幸せだけど、こういう女子会みたいな楽しい日々もずっと続いてほしいなと思う。
「最近、贅沢になった気がする」
「そうですか? 殿下の費用は随分と余っていますが?」
「そっちじゃなくて、毎日幸せだなぁ、ずっと続いてほしいなって」
「ふふっ。それは、とてもささやかな願いですね」
「そうかなぁ」
とっても贅沢なんだけどなぁ。





