30:違和感の正体
カサンドラさんとの恋バナは、夜更けまで続いた。お互いにどこが好きだとか、どこが可愛いとか、ちょっと苦手なとことかも。
そうしてそのまま二人でベッドに入って、ポツポツと話しながら眠りについて、朝起きて目を合わせてクスクスと笑ってしまった。
「侍女失格ですわね」
「あら、主人の願いをかなえてくれただけでしょ? 私は、友だちとして話してくれたと思いたいけど」
「……っ、はい」
少し目を伏せて微笑むカサンドラさんは、本当に美しかった。
それから数日して、王城のサロンで結婚式のドレスのデザイン決めなどをしていた時だった。
デメトリオさんが何やら騎士団の件で呼び出されてしまった。彼は行きたがらなかったけれど、デザイン決めはほとんど終わり、私は採寸に入るだけだったので笑顔で送り出した。
隣室で採寸をしていると、侍女さんたちが何やら慌ただしく動いていて、漏れ聞こえた内容から、どうやらサロンに国王陛下がいるらしいということ。
なにしに来たのかなーなんてぼーっと考えていたら、侍女の一人がデメトリオさんの代理で来られたようですと報告してくれた。
――――なぜに。
採寸を終わらせ、デイドレスを着なおしてサロンに戻ると、国王陛下がゆったりとソファに座っていた。紅茶のカップを持ったままで、斜め後ろに立つカサンドラさんに身体を向けて、柔らかな笑顔で何かを話しかけているようだった。
あぁ、見たことあるなあの表情。と一瞬思って、それが何でいつだったかと考えていたら、国王陛下が私に気付いて身体をこちらに向けた。
「失礼いたします」
「うん? 私がお邪魔してるんだけどね」
クスクスと笑う表情は、おじいちゃんにもデメトリオさんにも似ている。そう考えると、あの庭園でおじいちゃんとデメトリオさんの関係によく気付かなかったものだなと、自分の鈍感さにびっくりだ。
「せっかくのドレス決めなのに、デメトリオを呼び出してすまないね」
陛下いわく、仕事の引き継ぎとちょっとしたトラブルがあったらしいけれど、すぐに戻ってこれる程度らしい。
じゃあ何で陛下がわざわざ来てくれたんだろうか?
よくわからないなぁと思いつつも、陛下と一〇分ほどおしゃべりをして過ごした。
「……何でいるんですか」
「酷いなぁ。未来の娘の相手くらいさせてくれよ」
ちょっと息を切らして戻って来たデメトリオさんに睨まれて、陛下が困ったように笑っていた。
金銭的なことや日程的なことの相談があった場合、決定権のある者がいたほうがいいだろうということで、陛下はサロンに来てくれていたらしい。
それは本気でありがたい。初めてのことだらけで、本気で何も分かっていない。
「ふぅん。ではどうぞ、お戻りください」
「陛下、ありがとうございました!」
「うん。またね」
そう言って、軽く右手を上げてサロンから出て行こうとしていた陛下が、ほんの少しだけ歩速を緩めたのが気になってジッと見てしまっていた。
入り口横で臣下の礼を執り俯いていたカサンドラさんに対し、陛下が酷く柔らかな視線を向けたのがちょうど見えてしまい、さっき感じていた違和感の正体に気付いてしまった。
陛下がカサンドラさんに向ける視線は、とても見たことがあった。あれは、デメトリオさんが私に向けてくるものと一緒だ。
――――想い合ってるんだね。