28:初恋
夜会から戻って、お風呂に入った。
世のご令嬢たちは入浴も侍女に手伝ってもらっているらしいけれど、そういった系のお世話は自分で出来るからと断っている。
ただ、今日はちょっと違う。
カサンドラさんもお風呂に入ってきてね、上がったあとに私の部屋に来てね、と伝えている。寝間着で!とも。
「失礼いたします」
「ごめんね。仕事終わってるのに呼び出して」
「問題ございません。お話というのは?」
とりあえず座ろうよ、とベッドに誘った。
カサンドラさんは『なぜ』といった感じで驚いた顔をしたものの、私が先にベッドに飛び乗って「早く!」と急かしたので、おずおずとベッドに上がってくれた。
寝間着のスカートの裾をちょっと整えて、カサンドラさんと向かい合って座った。
パジャマパーティーみたいでなんだかワクワクしてる。
「あのね、今日のカサンドラさん見ててね、恋バナしたくなっちゃったの」
「恋バナ……ですか? 今日の私?」
「うん!」
カサンドラさんが国王陛下に向ける視線は、普段とは違うものだった。いつもと違う一面が見れたことが嬉しくて、話したくて仕方がない。
あと、こういう話が出来る相手があんまりいないというのもある。城下町に友達とかはいるけど……現状話せないことが多すぎるし。
「今日ね、デメトリオさんとカサンドラさんに嫉妬してたの」
「……………………はい?」
「あははは!」
こういうときの反応が二人ともそっくりで、笑いが込み上げた。幼いころから一緒に過ごしてるから、似るんだよね。
ちょっと羨ましいけど、兄弟のようなものと分かると、途端に愛らしく思えてくるから現金だ。
「なぜそのような思考に……」
「ファーストダンスのときにね、デメトリオさんが時々だけどカサンドラさんを見てたの」
「……ああ。睨まれてましたね」
睨んでたというより、彼なりに心配してたんじゃないかなと思う。傍観してるとは言ってたものの、たぶんカサンドラさんが傷つくのは避けたいんだろうなって。
「いつから?」
「はい?」
「国王陛下のこと、好きなんでしょ?」
「っ!」
カサンドラさんの耳が真っ赤になった。目は見開いて言葉に詰まりはしているものの、表情に変化はない。すっごい分かりづらい! でも、注見しているとやっぱり眼力がちょっと弱まってる。
「殿下ですか……」
「あっ! 違うの、私が物凄く嫉妬しちゃって」
言ってて恥ずかしくなってきた。
「今ね、初恋風邪中なの」
「初恋風邪、ですか?」
「うん。デメトリオさんに初恋中でね、ちょっと拗らせてるっぽいの」
カサンドラさんがポカンとしていた。どうしたのかと聞くと、初恋はみんなもっと早くて、相手も同じ年とかで、自分がズレているのかと思っていたらしい。
「え、っていうことは、もしかして?」
「はい。ヴィクトル……陛下が初恋の相手です」
少し俯いて弱々しい声でそう答えたカサンドラさんの顔は、甘い匂いを放ちそうなほどに桃色になっていた。
――――かわいいぃぃぃい!





