27:不治の病?
柔らかに微笑む国王陛下と、耳が少し赤い気がするけど、いつもの眼力を携えたカサンドラさん。
だからどうしたんだという思いを込めてデメトリオさんを見ると、カサンドラさんをよく見ろと言われた。
「緊張してる?」
「まぁ、そうだな」
少し気になるのは、デメトリオさんと幼少期から一緒にいるのなら、国王陛下に馴れていてもおかしくないのに、カサンドラさんはなんであんなにカチコチなんだろうかということ。
「………………鈍感か?」
「え? 私!?」
「他に誰がいるんだ」
バルコニーには私とデメトリオさんのみ。確かにちょっと鈍いこともあるかもしれないけど、こんなに面と向かって言われるのは、かなり不服だ。
「俺はただ、傍観しているだけだ。あの二人を」
そう言われてやっとピンと来た。
「えっ、あっ? カサンドラさんって国王陛下が好きなの!?」
「ん。そして、父は分かってて、ああやってるんだよ。タチが悪い」
気付いて二人を見てみれば、カサンドラさんの耳は凄く赤く見えるし、目つきはいつもより二割くらいは柔らかいかもしれない。
「陛下はカサンドラさんのこと、どう思ってるのかな?」
「知らん」
「えー、自分から言ったのに」
「ふはははっ! 機嫌、治ったらしいな?」
そう言われて、ハッと気づいた。もう、心臓はチクチクモヤモヤしていないと。
ちょっと恥ずかしくて、頷いて返事をすると、デメトリオさんが破顔してキスしたいと言った。
「うん」
「ん――――」
ふわりと触れた唇は、真冬の寒さの中で、そこだけが灼熱の太陽に触れたように熱かった。
「嫉妬は、好きな相手にされるとこうも嬉しいんだな。もっと、いろんなエマを見せてくれ。もちろんキスで蕩けた顔をするエマも大歓迎だ」
「っ……どりょくひまふ」
燃えるように熱い頬を冷えていた手で押さえて、どうにか熱を逃がした。
会場に戻り、デメトリオさんに上着を返していると、私たちに気付いたカサンドラさんが早足で近付いてきた。
「なんだその目は……」
「また不埒なことをやっていないかと」
「俺をなんだと思ってるんだよ」
「ふふっ」
こうやって聞いていると、兄弟みたいな会話だなと思えて、笑いがこみ上げてしまった。
デメトリオさんの気持ちがどちらに向いているかなんてわかりきっているのに、恋とは怖ろしいもので何でもかんでも疑ってしまう。
そういえば母が『初恋風邪』なんて呼んでいたっけ。うん、これは『不治の病』なのかもしれない。
「エマ様、お加減は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。カサンドラさん、家に帰ったら、いっぱいお話しよ?」
「はい……?」
カサンドラさんはよくわからないけれど、首肯したという感じだったけど、言質は取ったということにしよう。
国王陛下の方も気になるけど、立場とか色々あるだろうし、愛だ恋だとかを聞く関係性にはないというものもある。
とりあえずは、カサンドラさんと恋バナよね?
「なぁ、エマ……もう一度、踊らないか?」
「っ、はい!」
違った。
とりあえずは、デメトリオさんとダンスね!
あんなに練習したんだもん、ちゃんと踊って楽しまなきゃ。





