24:冷血王子
手の隙間からモゴモゴ話されて、擽っくたくて笑ってしまった。
デメトリオさんはちょっといじけたまま。
「人前で事に及ぶのは、ちょっとまだ」
「グゲホッ! こ、事ぉ!?」
「え?」
以前キスしていた時、カサンドラさんに言われた言葉なのに、なんで私が言うと驚かれるんですかね? そう抗議すると、デメトリオさんが手で目元を覆い隠し、こめかみを揉んでいた。
そして、珍しいことに目の前に座っていたカサンドラさんが、それはそれは楽しそうにクスクスと笑い続けていた。
「クソ。お前のせいだろうが」
「あら、自業自得ですわよ?」
二人がボソボソと罵り合っているのを微笑ましく見つめていたら、王城に馬車が到着した。
「エマ、とりあえず後回しにするが、人前で『事に及ぶ』は、絶っっっっ対に、言わないこと。いいな?」
「わ、わかりました」
デメトリオさんが両肩をガシッと掴んできて、真剣な表情で言うものだから、なんでかとかの理由を聞きそびれてしまった。
王族であるデメトリオさんとホールに入場するので、一般とは違う入場口に向かった。
そこには国王陛下や王弟殿下ご家族などがいらっしゃった。皆さんたちと挨拶だなんだと話していたら、いつの間にか緊張が解けていた。
「ん、表情が和らいだな」
「はい」
「そろそろ入場だ」
そう言われて、下を向いて自分の体を軽く確認。
――――うん、大丈夫。
会場内にアナウンスが響く。
国王陛下から順に名前が呼ばれ、二列になって歩いていく。
パートナーがいない場合は一人で歩くらしい。だから国王陛下はいつもお一人なのだろう。デメトリオさんのお母さんは、彼が十代のころに病で亡くなられたらしい。
国王陛下は後妻は取らないと宣言しているのだとか。
それほど愛し合っていた夫婦なのだろう。
私たちもそんな関係になれるといいなと思う。
国王陛下が新年の挨拶を終わらせ、私たちの紹介に入った。遺言状や細かなところは伏せたものの、婚約者となったことや、今年の初夏に結婚式を挙げる予定だと話した。
会場は思ったよりも驚いた様子だった。
「あの冷血な王子がねぇ」
そんな声が聞こえてきて、王弟殿下の息子さんかなと見つめてみたけど、誰よりも優しそうな感じの少年だった。
違うな、誰だ冷血王子ってのは……とキョロキョロしていたら、デメトリオさんが何か気になるのかと聞いてきた。
「冷血王子ってだれのことですか?」
「……………………俺」
物凄く溜めて言われた。デメトリオさんが冷血王子? ちょっとよく意味が分からない。
確かに表情は硬いけど、よく笑うし可愛いのにと呟くと、デメトリオさんが顔を赤く染めていた。
「っ、こういう場で煽るなと何度も……!」
デメトリオさんの煽り判定が良くわからないなと、ため息が出てしまった。





