23:夜会に出る
新年を言祝ぐ会という名の夜会にデメトリオさんと参加することになった。
そこで、正式にデメトリオさんの婚約者だということと、結婚式の日程を発表するらしい。
夜会の数日前に渡されたドレスは、柔らかな若草色のドレスだった。ストレートカットのAラインドレスで、あまり締め付けのきつくないものでほっとした。
「お似合いですよ」
「ほんと? ありがとう」
着付けてくれたカサンドラさんが、鋭い瞳のままでうんうんと頷いていた。眼力が天元突破してるけど、彼女は元々そんな感じらしいというのは、出会って少しして気付いたのよね。
あと、わりと可愛いものや猫が好きみたいで、裏口にくる野良猫をどうにか触れないか画策しているのは時々見かけている。あの眼力でじっと見るから逃げられてるけど。
「こちらも殿下からでございます」
カサンドラさんがベロアが貼り付けられた両手サイズくらいの箱をパカリと開けると、そこには豪奢なビブネックレスとドロップ型のイヤリングが入っていた。どちらもダイヤモンドがふんだんに使われている。
「デザインは指輪に合わせられていますので、一緒に着けて問題ないでしょう」
デメトリオさん、そこまで考えて宝石選んでくれた模様。そういう気遣いって凄く嬉しい。
彼と出逢ってから、初めて知ることが沢山あった。
これからも沢山の初めてがあるんだろけど、彼となら何があっても大丈夫だろうな、と何となく思える。
「んっ。似合ってる」
「ありがとうございます」
迎えに来てくれたデメトリオさんが、ドレス姿の私を見てふわりと微笑んでくれた。
カーテシーをしながらお礼を伝えると、デメトリオさんが「ふふっ。戦闘準備は万端なようだな」と、くすりと笑ってくれた。
エスコートをしてもらい馬車に乗り込むと、いつの間にか落ち着いた紺色のドレスに着替えていたカサンドラさんが既に乗っていた。
「ふわっ!? びっくりした」
「ん?」
デメトリオさんはどうしたんだろうかと首を傾げ、カサンドラさんは無表情のままで目礼。
「え、あの……カサンドラさん、いつの間に!?」
「本日はこの格好で後ろに控えさせていただきます」
上級貴族は夜会では侍女を後ろに控えさせるものの、お仕着せでは夜会の雰囲気を損なってしまうので、ドレスを着させているのだというのは、座学で知っていた。
ただ、それが自分にも適応されるのだということが、頭からすっかりと抜け落ちてしまっていた。
「ふはっ。エマ、嬉しそうだな」
そりゃそうだ。信頼している人が二人に増えたのだから。
実は、初めての大きな夜会に、心臓がバクバクとしていた。でも、デメトリオさんと、眼力天元突破なカサンドラさんがいたら、無敵だぞ! 百人力だぞ!と思えるのだ。
それを二人に伝えると、きょとんとした顔を向けられた。
「緊張していたのか? というか、初めての夜会!?」
「はい、そうですよ」
「デビュタントボールは……?」
「あっ、参加はしましたよ!」
デビュタントボールは参加した。白いドレスを着せられ、良くわからないままにダンスの輪に入れられ、みんなと一斉に国王陛下に挨拶したり踊ったりして、それが終わったらサクッと退場した。
「あ……おじいちゃんとそこで会ってたんだ。会ったと言っていいか微妙だけど」
二階席にいる国王陛下に、一階席のボールルームから、一〇〇人くらいで一斉にカーテシーをしての挨拶だったし。
「なるほど。確かにそうなると、夜会はほぼ初めてだったんだな」
「はい」
デメトリオさんが私の左手を柔らかく握りしめ、ずっと側にいるから頼ってくれよ? と首を傾げて聞いてきた。
「はい。ありがとうございます」
その気持ちが嬉しくてお礼を言っていたら、デメトリオさんの顔がスススッと近付いてきた。
慌てて彼の手から左手を引っこ抜き、両手で彼の顔を押しのけた。
「…………なんでだよ」
物凄く低い声で抗議されてしまった。





