21:煽ってない
◇◇◇◇◇
月下美人が満開になった直後、デメトリオさんにプロポーズされた。
元々結婚も決まっているし、婚約者になってたけど、いろいろすっ飛ばしていたから、いつか正式にするみたいなことは聞いていた。
でも、まさか今日だとは思ってもいなかった。だから気になった。
「なんで今日なんですか?」
「ん?」
デメトリオさんが抱擁を軽く解いて見つめてきた。それで気付いたんだけど、デメトリオさんがなんかちょっと涙目な気がする。
瞳の中の向日葵がキラキラと揺らめいていた。
「え、泣いてる?」
「……言うな」
恥ずかしそうにしているデメトリオさんを見て、心臓が潰れるかと思った。
本当に無意識だった。
気がついたら、彼の両頬に手を添えて少し引き寄せ、唇を重ねていた。
「……あ。ごめんなさい。つい」
慌てて離れようとしたけれど、デメトリオさんは解放してはくれなかった。
「そういえば質問を放置してたな」
そう言うと、深く深く貪るようなキスをしてきた。いつもながら、息継ぎのタイミングが分からなくて、息が苦しい。
「キスをしていると、エマと一つになれたような気分になれるんだよ」
「っ!?」
「なんだ、そこまで初心というわけでもないのか」
デメトリオさんの言った『一つになれる』で余計な想像をしてしまって、自分史上一番顔を真っ赤にしている気がする。
目を見開いたあと、嗜虐的な笑みになったデメトリオさんにもドキドキしてしまうのだから、ほんと恋って厄介なものよね。
「さ……すがに、この年ですし」
「この年というほどの年齢でもないだろ」
「そうですか? 貴族は一〇代後半で嫁入りが普通のようですが」
「まぁ、家同士の契約やらある場合はな」
ただ、それも昔の慣習のようなもので、今はお互いの意思も優先されるようになってきているらしい。二〇代で結婚していない令嬢たちも多いのだとデメトリオさんに教えてもらった。
そこでふと気になった。
「デメトリオさんって、おいくつなんですか」
「ん? 今日で二七歳だな」
――――今日!?
ちょっと待って、聞いてない。っていうか知らなかった。そうだった、恋人たちって誕生日とかなんかイベントなんだよね? 小説に書いてあったのに、そこまで気が回ってなかった。そうだ、デメトリオさんにも誕生日とかあるんだよね。
「だから、今日伝えたかったんだ。あ、そうだ。エマ、プレゼントをくれないか?」
「えっ、へっ!? はい! なんでも!」
慌ててそう答えると、デメトリオさんの笑顔がピシリと固まった。
「…………エマ、その煽りグセは治さないと、酷い目に遭うぞ?」
真剣な顔でそう言われて、ちょっとムッとしてしまったのは事実だ。だって煽ってないんだから。てか、煽るってなによ?と。
「煽ってません」
「ふぅん?」
あれ、なんかヤバい空気かもしれない。デメトリオさんの目が完全に据わっている気がする。
「頬にと思っていたが……エマ、キスをくれ。口に」
「くち?」
――――唇じゃなくて?
「さっきもしたんだ、わかるだろ?」
貪るようなあのキスを、私から!?
いや流石にハードルが高すぎると顔を横に振りながら少し距離を取ろうとしていたら、デメトリオさんに腰をガシッと掴まれた。
「え……」
「ほら、これでやりやすいだろ?」
気付けば、デメトリオさんの膝の上に乗せられ、彼の身体を跨ぐような格好になっていた。
「んなぁぁぁぁっ!?」
変な声が漏れ出たせいで、このあと色々大変だった――――。