2:おじいちゃんの病気
ペイッと渡された封筒をジッと見ていると、連絡があるまで封を開けないようにと言われた。
「うん、分かった。おじいちゃん…………何の病気なの?」
聞いたところで、どうすることも出来ない。でも、聞かずにはいられなかった。大好きなおじいちゃんに、少しでも寄り添いたかったから。
貧乏男爵家の長女として生まれて二〇年。両親の祖父母は遠くに住んでいることもあり疎遠だった。だから、おじいちゃんが本当のおじいちゃんのように感じていた。
「んー、すまんのぉ。内緒!」
茶化したようにウインクして誤魔化すおじいちゃんにクスリと笑ってしまった。
こんなに明るくて、お茶目なおじいちゃんが、病に負けるはずがないよね、なんて楽観視していた。
翌週庭園に行くと、おじいちゃんたちはいなかった。
――――そう、だよね。
体調が悪いって言ってたのだから、今ごろきっと治療に専念しているんだよね。どこかの上級貴族っぽいから、腕利きのお医者さんに診てもらっているはず。だから、余計な心配をして悪い気を引き寄せないようにしなきゃ。
両頬をペチンと叩いて、悪い考えを追い出す。
楽しそうに笑うおじいちゃんと、呆れたように文句を言いながらも微笑むデメトリオさんを思い出した。
――――うん、きっと大丈夫!
その次の週。ドキドキしながら庭園に向かうと、おじいちゃんたちはまたいなかった。
三週間が経っても、四週間が経っても、おじいちゃんたちはいなかった。
五週目になっても諦めきれず庭園のガゼボに向かう。
だって、おじいちゃんとデメトリオさんに連絡する方法なんてないから。口約束だけで、ここに集まっていたから。
いないだろうなと思いつつもガゼボに近付いていると、黒髪の男性の姿が見えた。平民に見えるような服装だけど、明らかに上質な布で作られたジャケットとボトムス。
――――デメトリオさん!
浮き立つ心を抑えつつ足早に近付いて「良かった! 今日は来れたんですね」と声を掛けると、彼は少し淋しそうに微笑んだ。
「久しぶりだな」
「あれ? おじいちゃんは?」
「ん……そのことで伝言に来た」
ガゼボにいたのはデメトリオさん一人。彼の口から紡がれる言葉の続きが怖くて、もうすぐ夏のはずなのに肌寒さを感じた。
たぶん、酷く不安な顔をしていたんだと思う。
デメトリオさんが柔らかく微笑んで、私の方に右手を差し出してきた。そこに左手を重ねると、そっとエスコートしてベンチに座らせてくれた。
「ありがとうございます」
私の向かい側に座りながら彼が「俺には敬語を使うのか」と呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない」
「え、あ、はい……」
デメトリオさんは、私の敬語が気になっているようだったけれど、そう言われるまで気付いていなかった。確かに、おじいちゃんと話すときはもっとフランクだったかもしれない。
そんなことを考えていたら、デメトリオさんが「今日来たのは――――」と話し出したので、慌てて彼に意識を集中させた。