15:妃教育
庭園での様子とは打って変わって、おおよそ貴族らしくというか紳士らしく? 母に挨拶したデメトリオさんを見送って、部屋に戻った。
ベッドにダイブし、布団を抱きしめてゴロンゴロンと悶絶。
格好良い。もう、訳が分からない。
デメトリオさんが何をしても何を言っても、格好良く見えてしまう。
以前読んだ本に、恋する乙女は盲目だと書いてあった。本当にそうだと思う。
格好良すぎて、ずっと彼を見つめてしまう。そして、私の視線に気付いて微笑み返してくれるデメトリオさんが更に格好良いのだ。
「ふわふわする…………」
初デートの後、熱を出して三日間寝込んだ。
「うあぁ、身体がバキバキ」
身体を左右に傾けて背伸びをしていたら、母がくすくすと笑った。
「知恵熱というか……初恋風邪かしら?」
よくわからない名言を生成しないで欲しい。
明日くらいに父が帰ってくるらしい。それに合わせて、また王城にきてくれという旨の手紙が届いていた。
どうやら妃教育が始まるらしい。
翌日の朝に父が帰ってきて、お昼にはバタバタと王城に向かった。
私の教育やら何やらの手配をしてくれる専属の侍女さんをデメトリオさんに紹介された。どこかで見たことあるような……と水色の瞳を見ていてハッとした。遺言状の時の眼力が天元突破した侍女さんだった。
「カサンドラと申します」
「あっ、エマです! よろしくお願いします」
眼力だけじゃなく、名前も強そうだった。
カサンドラさんは、侍女とはいうもののかなり幅広いお仕事を担当する、妃専属の執事のようなものだと言われた。
執事が何をする人なのかとかもよく分かってないとは言えない空気だ。父にも執事さんとかいないし。
これから家のこととかあるのに、妃教育かぁ。父とチェスする時間がなくなりそうだなぁとしょんぼりしていたら、私の家に執事や侍女を配属し、内装などの業者を派遣する話が始まった。
「えっ……え? でも、我が家にそんなお金ないですよ?」
「ブフォッ」
本気で慌ててるのに、デメトリオさんはたまらないっといった様子で吹き出した。ジロッと睨むと、くすくすと笑いながら「妃用の費用内でやるから安心してくれ」と言われた。
でもそれって国民の税じゃないのかな?
昔は王様の国に住まわせてもらってる土地代みたいな感覚での税金だったけど、今は国民のために使われるための税金みたいなところがある。確か、おじいちゃんが始めたみたいなことを母が言っていた。
だから、ちょっと使いづらいというか、甘えづらい。それをどうにかこうにか伝えると、デメトリオさんがふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
「エマのそういうところが好きだが、とりあえず窓のヒビ割れや床のへこみは危ないからな? 修繕は必要だ。そして費用は議会で組まれている。気にせず使え」
そもそも、とデメトリオさんが続けた言葉に驚いた。
妃用の費用はデメトリオさんが使うもので、普通はお妃様になる方のドレスや宝石などを購入するための費用らしい。
でも、私はそういうのは欲しがらないだろう?と言われた。
「はい。いらないですね」
「だよな」
デメトリオさんが『分かってた』と言いたげな顔でドヤっていたのが、なんだか可愛かった。