13:駄目か?
何が飛び出すのか、固唾を飲みデメトリオさんの目をじっと見つめて言葉を待っていた。
「っ……そう、見つめるな」
頬をわずかに染めて視線を逸らされたことで、じっと見つめるというよりは、前のめりでガン見していたことに気が付いた。
「ほぁっ。ごめんなさいっ」
「いや……その、な? エマがあまりにも祖父と楽しそうに話しているから…………俺のことなど眼中にないくらいに、好きなんだろうなと……」
――――何が?
好きって何のことかと考えていて、おじいちゃんのことだよね?と気になった。
そりゃあ好きだけど。それとデメトリオさんが『眼中にない』という状況になるのかが分からなくて首をひねりまくりながら素直にそう伝えた。
「エマは、卿と同レベルでチェス馬鹿だよな」
「ちぇ、チェス馬鹿!? チェスは好きですけど、馬鹿!?」
「チェスと祖父しか見てなかったろ?」
否定は出来ない。
おじいちゃんとチェスをするのは、凄く……凄く凄く楽しかった。
父とやるときは、無言で延々と打ち続ける。最後に反省会をして、どこにミスがあったかなどを淡々と話すだけ。
でも、おじいちゃんはいつも楽しそうにチェスしていたし、少し前に亡くなられたっていう奥さんとの思い出話とかも、面白おかしく話してくれていた。
毎週のあの時間が本当に楽しみだった。
「大好き……でしたよ?」
おじいちゃんの笑顔を思い出して、また涙が溢れ出しそうになった。ここは思い出の場所だから、余計に。
「っ、あー……すまん。泣かせるつもりじゃなかったんだ」
デメトリオさんが触れるぞと前置きしてから、柔らかく抱きしめてくれた。
「エマは顔に全部出てるんだよ『好きだ』って想いが。いつも祖父と盤面に向けられていた。いつからか、あの目を俺に向けて欲しいと思うようになった」
「へ……」
私、そんなに分かりやすいのかな!?
「チェスのときは真剣というか、飄々とした顔なんだが、終わると一気に花開く。可愛い。あと、チェックメイトと言うときだけ、悪戯っ子みたいなドヤ顔になるのも可愛い。凄く、可愛い」
抱きしめられて、よく分からない理由だったけど、可愛いを沢山言われて、全身の穴という穴から火が吹き出そうだった。
「ここは、エマにとって祖父との大切な思い出の場所だろうが、そこに俺も入りたいんだ。駄目か?」
子犬のような眼差しで、甘い声でそう言われて、嫌と言える女性はいるのだろうかと思った。ましてや、デメトリオさんのことが好きだと自覚してしまっている私は、余計に。
「駄目じゃ……ないです」
「ん」
ふわりと破顔したデメトリオさんが、ゆっくりと顔を寄せてきた。これ知ってる! 町中とかでラブラブなカップルがやってるやつ。
いままでは婚約者とか好きな人とか一切いなかったから、唇同士を合わせて何になるんだろうかと思っていた。
でも、デメトリオさんの柔らかそうで少し潤んでいる唇が、私のそれとくっつくのは、ありかもしれない――――!