11:両家で話し合い
◇◇◇◇◇
遺言状の開封の儀が終わったあと、細かな取り決めをしたいと国王陛下に言われた。出来れば両親を交えて、と。
あの二人を王城に連れてくる? 道中で心臓が止まってそうで嫌だなと思ったものの、何の後ろ盾もない貧乏男爵家には王命を断る選択肢は元々ないだろうなと諦めた。
「おおお初におめめにかかりまふ」
強制連行されサロンに通された父が、眼球をグリングリン揺らしながら挨拶を盛大に噛んでいた。
くすりと笑う国王陛下に、三人掛けのソファを勧められ、両親と並んで座った。
向かい側にはデメトリオさんと、デメトリオさんそっくりのイケオジな国王陛下。声はデメトリオさんより少し高い。そのせいか妙に若く見える。
「ああ、それから初めてじゃないんだが、卿はお忘れになって――――」
「いや! 覚えてます、覚えてます! 何度かチェスの御前試合でお会いしましたね。迎えに来た方に国王陛下への挨拶が分からないって言ったら、とりあえず『お初にお目にかかります』って挨拶しておけば大丈夫だって言われて!」
父よ、そのノンブレストークはヲタク臭いから、本当に止めてって言ったよね? 特に貴族の人に対して。なのに、貴族の中で最上位の国王陛下に披露かましてどうするのよ。
心の中で、父への苦情をモリモリに唱えていたら、デメトリオさんが父をジーッと見て「ブフッ」と吹き出した。
「ん。エマは、父上似だな」
ちょっと低めの声でそれを言いながら微笑むのは、なんか反則技の気がする。父似なのは否定できないので横に置く。
母が横で「どえらくイケメンね」とか呟いていたが、全員に聞こえていたらしい。
「お褒めにあずかり、光栄です」
デメトリオさんが王子様然とした微笑みで、母にお礼を言うと、母がまた「どえらくイケメン」と呟いた。
両親揃っていい加減にして欲しい。
「さて、亡き父が余計な気遣いをしたせいで、今は婚約という形で大丈夫だろうが。結婚はせざるを得ない――――」
「俺は、エマを妻にしたい。言われたからではなく、愛しているからだ。そこは間違えられたくない」
「「えっ!?」」
「……なぜそこでエマも一緒に驚く?」
目が据わったデメトリオさんにそう言われたけど、仕方なくない!? 好きだとか、愛だ恋だとか、惚れた腫れたとか、言われたことなかったんですけど?
いや、いま愛してるとか言われた気はするけども。
「え、なに? お前たちそういう関係だったの? そういうのは教えといてよ」
国王陛下が軽い。あとそういう関係ではない。
「いや。まだ告白もしてないし、返事も聞いてない」
「…………デメトリオ、ちょっとこっちに来なさい」
デメトリオさんが国王陛下と部屋の外に出て行ってしまった。
その隙に、何も説明されていなかったらしい両親がどうなっているのかと聞いてきた。
お城から誰か来て、よく分からないがなぜか前国王陛下の遺産を相続するらしい、ということろで情報が終わっていたらしい。
かくかくしかじかで説明し、デメトリオさんと結婚しろと遺言状に書いてあったと言うと、母があらラッキーね!と丸っと受け入れてしまったので、尻に敷かれ気味の父もそれでオッケーと軽い返事。
何となくこうなると思っていた。
両親の心臓が止まりそうになるのは、とにかく高貴な人たちに挨拶しなければならないというプレッシャーでのみだ。
デメトリオさんと国王陛下が戻ってきて、婚約期間は一年は取ろうということになった。そこでお互いをよく知り、結婚してもいいとなったら、再度プロポーズをデメトリオさんにさせるとのことだった。
「我が家はすぐに結婚でも構いませんよ!」
父よ、愛娘を嫁に出すテンションじゃないぞ。
国王陛下が苦笑いしながら私に視線を向けると、おじいちゃんとデメトリオさんが暴走してすまないと謝った。そして、お互いの気持ちをちゃんと育んで欲しいとも。
諸々の書類にサインをして、私とデメトリオさんは婚約者という間柄にはなった。
とりあえず、来週の水曜日にデートすることになった。お互いを知るために。
デメトリオさんもそれで納得しているらしい。
――――デートねぇ?