表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/54

第24話 神具(ニューアイテム)と、秩序のハッキング

 数日後。

 私は、再び王立大書庫の、あの忌まわしき黒曜石の扉の前に立っていた。

 私の後ろには、心配そうな顔の秘書アストライアが控えている。


『師匠…本当に、大丈夫なのですか? あの書庫、どうも性格が悪いようですが…』

「ええ、問題ありません。最高の道具ソリューションを、用意してきましたから」


 私の言葉を証明するように、扉の横の石像――【古文書の番人アーカイビスト・ゴーレム】が、重々しく動き出した。


『規則違反者、アカリ。再来ヲ確認。当書庫ノ秩序ヲ乱ス行為ハ、断固トシテ、認可シナイ』

「その、時代遅れの秩序とやらは、今日限りでアップデートして差し上げますよ」


 私はゴーレムを無視し、書庫の内部へと足を踏み入れた。

 早速、お出迎えだ。

 私が昨日綺麗にしたばかりの机に、天井から、またしてもインク瓶が落下してくる。


「予測通りですね」


 私が呟くと同時、私の腕から、シュルリ、と一枚の布が飛び出した。ジルドン謹製の新作、【対・魔術的インク用・超吸収ステルスクロス】だ。

 それは、まるで生きているかのように、落下するインクを、一滴たりとも床に届かせることなく、空中で完璧に吸収。そして、布の内部で、インクを無害な光の粒子へと中和分解してしまった。


『ナッ…!?』


 ゴーレムの水晶のモノクルが、驚きにカッと見開かれる。

 私は、そんな彼には目もくれず、次の現場へと向かう。

 昨日、私を苛立たせた、散らかった巻物の山。私がこれを片付ければ、また棚が中身をぶちまけるのだろう。


「ですが、もうあなたの思い通りにはさせません」


 私は、背中に背負っていた、機械的なアームを展開する。これもジルドン作の、【概念的整理整頓補助アーム】だ。

 物理的に本を動かすのではない。アームの先端から、青白いグリッド状の光が、巻物の山全体をスキャンしていく。私の手元の魔法の石板タブレットに、全ての巻物のデータが表示される。私は、その画面上で、指先一つで、全ての巻物を完璧な順番に並べ替えていく。


「…実行エンター


 私が呟くと、アームが、棚そのものに直接、概念的な「整理命令」をハッキング。

 すると、どうだろう。

 巻物の山が、ひとりでに、超高速で、設計通りの棚へと、吸い込まれるように収納されていった。

 棚は、ガタガタと抵抗しようとするが、より上位の「秩序」の命令には逆らえず、ついには沈黙した。


『システムガ…直接、書キ換エラレタ…!? バカナ…ソンナ権限ハ…』


 ゴーレムの声が、明らかに狼狽えている。

 私は、最後に、あの騒音を立てる魔導書を手に取り、静かに椅子に座った。

 案の定、ページが、バサバサと暴れ始める。


 私は、すっと耳に、ヘッドフォンを装着した。【反響定位式ノイズキャンセリング・ヘッドフォン】。

 瞬間、世界から、音が消えた。

 このヘッドフォンは、周囲の音を遮断するだけではない。騒音の周波数を分析し、それを打ち消す逆位相の静寂の波を生成する、攻めの静寂サイレント・アタック機能付きだ。

 本のページがどれだけ暴れても、私の周りは、深海のような静けさに満ちている。


 全てのトラップを、完璧に無力化。

 私は、本を閉じると、静かに立ち上がり、混乱してショート寸前のゴーレムへと向き直った。


「どうです? これが、わたくしの仕事です」

『…理解不能。…理解不能。…秩序ガ、秩序ニヨッテ、破ラレテイル…。論理矛盾パラドックス…。システムエラー…』


 ゴーレムの青いモノクルが、赤く点滅し始める。

 私は、そんな彼に、一枚の汚れた羊皮紙を突きつけた。


「あなたの言う『秩序』は、ただの、非効率で、独り善がりな、過去の遺物。プロの仕事とは言えません」

『シ、システムハ…絶対デアル…』

「では、証明しましょうか」


 私は、書庫の一角、最も混沌としたエリアを指し示した。


「あの区画を、あなたとわたくし、同時に整理整頓する。あなたは、あなたの古臭い規則ルールで。わたくしは、わたくしの最新の流儀システムで」


 私の目は、もはやただの清掃員ではない。

 旧式のシステムを、最新のそれで駆逐し、最適化しようとする、冷徹なコンサルタントの目をしていた。


「どちらの『秩序』が、より速く、より美しく、より機能的か。…白黒、はっきりつけましょうじゃないですか。これは、戦いではありません。いわば、業務改善コンペです」


 私の挑戦的な提案に、論理で動くゴーレムは、反論できない。

 彼の赤い点滅が、やがて、一つの答えを導き出すように、ゆっくりと、しかし力強い、青い光へと変わっていった。


『…ソノ、コンペ…トやラ、受諾…スル』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ