表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/63

7、ウブな25歳としゃべる赤子

 

 バンッと乱暴に執務室を開けた私は、開口一番叫んだ。


「旦那様! 赤ん坊の名前はハジメちゃんがいいと思います!!!!」

「はじ……なんだって?」

「ハジメちゃん!」

「ハジメ?」

「『ちゃん』は必須でお願いします!」

「なんで?」

「直感です!」


 明らかに『興奮してます!』というように、顔を高揚させて旦那様に近づけば、赤い顔が背けられた。どうやら近づきすぎたらしい。


 しかし今は、そんな旦那様を可愛いとか言ってる場合ではないのだ。今見た事実をお教えしなければ!


「あのですね、旦那様!」

「近い近い、メリッサ顔が近い」

「実はこの赤ん坊、凄いんです!」

「いや赤ん坊のことはいいから、とりあえず離れて……」

「旦那様、私の話を聞いて下さい!」

「お願い、鼻先まで顔を近づけないでくれー!」


 ええい、25歳にもなってウブな男め! と更に顔を近づけようとしたら「はいそこまで」と髪を引っ張られた。


 グキッて言った。今私の首、グキッて言った!


「痛い!」

「落ち着けって言ってんだよ」


 いつ誰が落ち着けて言ったの!? と痛みで涙を浮かべながら振り返れば、すっごい恐い顔で睨んでくるアラスと目があった。ので前を向いた。背後の殺気が恐い恐い。


「今、クラウド様はお仕事中だってこと、理解してますかメリッサ様」

「い、一応理解してるつもりです、はい」

「じゃあどうして邪魔するんですか? 見てください、クラウド様が真っ赤になって両手で顔を隠してるじゃないですか。これ、しばらく使い物になりませんよ。どうしてくれるんですか」


 言われて見れば、顔から湯気が出そうなくらいに顔が赤い旦那様。そんな鼻先三寸で照れんでも。思春期か。


「クラウド様はこじらせ思春期なんですよ」

「なるほど」


 アラスの説明に妙に納得……している場合ではない。そんな『青春とは?』な話をしにきたんじゃないのよ。


「あのですね、赤ん坊のことについてご報告があります」

「体調でも悪いのか?」


 さすがに赤ん坊の話をしたら、顔の赤味は引いて、真剣な顔の旦那様がこちらを見た。からかいたい衝動がムズムズするが、今は我慢しよう。背後のアラスが恐いから。殺気送らんでくれる?


「いえ、すこぶる元気です。ですが、しゃべりました」

「そうか……うん、なんだって?」


 私の言うことには全て頷きたい旦那様。だがしかし、それで済まして良い発言ではないことは、すぐに気づいたらしい。


「赤ん坊が?」

「話しました。なのでハジメちゃんという名前にしていいですか?」

「いや良くないけど。どこからその名前が出たの?」

「なんかビビッときたんですよ」


 なんて会話をしていたら「お前も転生者か」という声が腕の中からした。


 私の腕がしゃべったんじゃないよ。そんな奇想天外なこと、さすがの私の腕でも起こらんよ。


「さすがメリッサ様の腕。おしゃべりするようになったんですね」

「違うっちゅーに。アラスの中の私は、どういう位置づけなの」

「珍獣」

「どうやらアラスとは、一度じっくり話す必要があるようだね」

「そんなことしたらクラウド様が嫉妬するので面倒です」

「マジ面倒」


 完全な脱線に「いやなんの話」と旦那さまが言わなきゃ、多分話はすっごい脇道入ってたと思う。


 無理やり本線に戻す。


「今の声、聞きました?」

「マジ面倒ってやつ?」

「それは私の発言です。そうじゃなくて、私の腕の中の……」


「しゃべる赤子でハジメちゃんときたら……そうか、お前も俺と同じ世界から来たんだなあ」


 はい、長文聞こえました。

 見つめる私と旦那様。状況が状況だけに、さすがの旦那様も顔は赤くならない。

 それからゆっくり下にずらされる視線。そこにはペタペタの私の胸……じゃないよね、そこ見てないよね旦那様。微妙に焦点ズレてる気がするけど、見ないよね?


 というわけで、私の腕の中でモゾモゾ動く赤ん坊を旦那様に差し出した。


「この赤ちゃん、どうやら話せるみたいです」


 それもくっそ生意気で口悪いです。


 そう付け足したら、赤ん坊は「よっ!」と言って小さな右手を軽く上げた。


 直後。


 ぎゃー!? という旦那様の叫び声が屋敷内に響き渡ったのは……まあしょうがないよね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ