62、二人一緒なら無敵なのだ
「大丈夫よ、私の光魔法があるわ」
すかさずクラウド様に向かって防御力と攻撃力をアップさせる魔法をかける。
クラウド様の体が、淡い光に包まれる。
「どうせならあんたの魔法で倒しちまったほうが早いんじゃないの? 魔族に光魔法は最強だろ?」
「やったことないから力加減がわかりません」
「加減する必要が?」
「無闇な殺生は好まないのです」
言って、チラリと視線を向ける。
私達とは少し離れ、剣を交わす二人からも離れた場所。
森の大木に背を預けて一人ポツンと佇む、魔族の少年。まあ多少(?)私より年上ではあるが、魔族にとっては十分すぎる幼い子供。
「魔族ですが、あの子の父親ですしね」
何か……それこそ命を奪ってやりたくなるような酷いことをされたわけではない。というか何もされてない。攫われそうになっただけで、殺してしまおうと思うほど血に飢えちゃいないのですよ。
「魔族だからって、命を奪って良いわけではない。そうでしょ?」
顔を見て言えば、肩をすくめるノンナリエ。それは是という反応ととらえて良いのかな。
「お、さすが光魔法。押されてたけど互角に戦えているじゃないか」
話を逸らすというより、そっちに興味が引かれたというように、ノンナリエが言う。その顔はどこか楽しげだ。
言われて見れば、確かにクラウド様がジリジリと前進へと転じている。つまりは押しているのだ。
「パパー! 頑張れー!」
魔族の子、ローディアスが声援を送れば、またググと魔族が押し返す。戦うパパは強いんだぞ。
「押されてるねえ」
「ぐ……アーサー、あなたも声援を送るのよ!」
「いけー伯父上ー! そこだやれ、やっちまえ!」
「うんもういい、ちょっと黙って」
精神年齢18歳に声援を頼むんじゃなかった。
「僕よりメリッサママが応援しゅるほうが、伯父上は元気になると思いましゅよ?」
憮然とした表情で言われてしまっては、苦笑を返すしかない。まあそらそうだわね。
「クラウド様、頑張ってください!」
お、またちょっと押し返した。でも向こうもローディアスの声援があって、一進一退。というか均衡状態。
「どうしたらいいのかしら」
「メリッサママ、やっぱ特べちゅなこと言わないと駄目なんじゃないれしゅか?」
「特別……うーん、特別?」
「えっちいこととか」
「……この森に置き去りにしてやろうか」
「飛べましゅよ」
分かってるし本気で言ったわけではない。
ただなに言っとんねん、このお子ちゃまはと思っただけですがな。
放たれる冷気に、私の怒りが伝わったのだろう。「ばぶ」と言って口を閉じるアーサー。誤魔化しがとんでもなく下手だな。
その時、大きな声が聞こえて慌てて目を向ければ、剣を落として右手を押さえるクラウド様の姿が目に入った。
「クラウド様!」
思わず悲鳴のように名を叫ぶ。
苦悶に顔を歪めるクラウド様、その鼻先に腕を剣に変えたその切っ先を突きつける魔族。
「終わりだ、人間にしてはよくやったほうだが、所詮は人間。光魔法の恩恵があってもこの程度なのだ。人間に彼女の存在は分不相応だと知れ。そして死ね」
それはダメだ、絶対にダメだ。
もし本気で彼がクラウド様を殺したら、私の魔力は暴走し、魔族の男だけではなく、この場にいる他の者にまで被害が及ぶ。
制御できない強大な力ほど恐ろしいものはないのだ。
「ダメっ、やめて!」
「見ていろ、お前の夫は死ぬ、そして俺がお前の新たなる夫となる」
そんなこと、誰が認めるかあ!
どうする? 考えろ!
光魔法を魔族に放ったとして、どれほどの被害が出るかわからない以上、無闇矢鱈と魔法を使って攻撃できない。
とはいえ物理攻撃は、私に至っては皆無に等しい。
ノンナリエに止めてくれと頼むなんてもってのほか。他者を犠牲にすることなんてできない。
だからひらめいた案に一瞬の迷いはあれど、それを気にする余裕もなく私は叫ぶ。
「クラウド様!」
「無駄だ」魔族の声など無視だ。
「もしその魔族に勝ったら、ご褒美あげます!」
その瞬間、クラウド様の体がピクリと震えた。よし、私の声はちゃんと届いてるな。
意を決して、私は顔を赤くしながら叫んだ!
「もし勝ったら、私を好きにしていいですよ! ピーでもピーピーでも、もっと過激にピーーーーー! なことしちゃってもいいですよーーーー!!!!」
秘技、放送禁止用語連発!
一応ね、前世の記憶でもって知ってる言葉を並べましたが、それらがどういった内容かまでは覚えちゃいない。
でも子供に聞かせちゃいけないことだけはわかるので、咄嗟にアーサーの耳は塞いだ。
精神年齢18歳? ならなおのこと聞かせちゃいけないやつ。魔族の子は……まあ一応90年以上生きてるのだから、このさい気にすまい。
問題はクラウド様の反応だ。
さあ、どう出る?
変化はすぐに現れる。
『エロエロアハン(…)な状況になると、満月とかに関係なく、クラウド様は変化するのよ』
状況にならなくても、脳内で想像するだけでオッケーだと、眼の前で証明されたのだ。




