54、私がここにいる根本的原因はあなたなのですが
私とノンナリエとゼンの三人は、ゆっくりと森の奥に向かって歩き出す。
時折獣だか魔物だかの鳴き声や気配がするも、どれも私達を襲ってくる様子もなく、平穏そのもの。異様なまでに暗いこと以外は、森は至って穏やかだ。
「光魔法って、普通に光を作り出せるんだね」
「まあ光魔法ですから。その名の通りの魔法を使えなかったら、名乗っちゃ駄目でしょってなりますし」
私達の進行方向に浮かぶは、ランプのように明るい光の玉。私が作り出した光のおかげで、暗い森も難なく進めるというもの。
「ねえねえ」
不意にゼンが私の腕を引く。
「ん? なあに?」
「どうしてメリッサは、ノンに対して敬語なの?」
それな。
私も自分で言ってて不思議なのだが、なぜかノンナリエには敬語を使ってしまうのだ。彼女の、誰にも媚びへつらうことのない、威厳ある態度ゆえなのか。
「私のほうが偉いからだよ」
いきなりノンナリエが変なこと言い出した。
「え、そうなの?」
ゼンが知らなかった、というように目を丸くする。
「ちょっと。子供に妙な嘘教えないでくださいよ」
「嘘じゃないさ。実際、私のほうが上だと思うから、あんた私に対して敬語なんだろ?」
「いや知りませんよ、そんなの」
どっちが上で下かなんてどうでもいいわ。
「あなたとは、いずれ決着をつけなければいけませんね」
「お望みとあらば、いつでも」
なんなら今からでも、と言い出しそうな雰囲気だ。その表情からは、負けることなんて一切考えてないということが伝わってくる。私、そんなに弱そうに見える?
まあ勝てる自信なんてないけどさあ。
などと他愛ない(?)会話をしつつ歩いていたら、結構な奥まで来たらしい。
「この辺は、光が一切入ってきませんね」
上を見れば、わっさわさ生えた木々が空を覆い隠し、最初はかすかながらもあった陽の光はまったく感じられなくなっている。
「そろそろ森の中心部くらいかねえ」
ずいぶんと歩いたよね。
そう言ってノンナリエが周囲を見回したとき。
「おんや? 何かいるね」
目を細める。
え、魔物? と警戒と共にゼンを背後にして前方を見据えた。
「まだ距離があるから何かは分からないが……」
「人、ですね」
「見えるのかい?」
「まあ光魔法のおかげで、視力いいので」
「便利なもんだね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「魔法を褒めただけであんたを褒めたわけじゃない」
「でしょうね!」
魔法を褒めて私を褒めないという理屈がわからないが、疑問は今は横に置いておく。
「魔の森の奥深くにいるんだ、人……じゃないだろ」
「魔族ってことですか?」
「十中八九は」
そう言いながらも、八でも九でもなく、100%そうだろうなと思っていそうな顔のノンナリエ。その手は剣に伸びている。いつでも戦闘態勢に入れるってことか。
とはいえ、正体を見極める前にいきなり斬りかかるのは、あまりに不躾……なのか?
万に一つの可能性で、人間であることも捨てきれないので、とりあえずはいきなりってのはやめたほうがいい。
「待ってくださいね」
「分かってるよ。あんたはどうでもいいけど、ゼンを守らにゃならんからさ、警戒を怠らないだけさ」
「いや私も守ってくださいよ」
「なんで」
なんでときたか。なんでときたか。あと三回くらい繰り返したい。
と、不意に私の手を握る温かな手を感じた。怖くてまた握ってきたのかな?
「ゼン、危ないので少し離れて……」
手の主を振り返って、私は言葉を失う。




