50、作戦があるのだ
「ノンナリエ……さん」
「なんだい」
「ひょっとしてなんですが、この獣の肉、魔物の肉、なんてことないでしょうか?」
言った瞬間、食べていたノンナリエがブッと吐いた。
「汚いですねえ」
「なにを言い出すんだい、あんたは」
「だって、あまりに穢れが強すぎて、普通の獣とは思えなかったんですもの」
「これは隣町で買ったと言っただろ? 魔物の肉が取引されてるとでも?」
「魔物の中には、鹿や猪に似た類の者もいますから。頼りないとはいえ、割れ目の向こうに行けるんですよね? 薬草とか取りに行ってるんですよねえ?」
「そりゃまあ……」
言ってから、うーんと唸るノンナリエ。
「魔物も獣もまあ似たようなものですから、食べられるのは確かです。でもあまりに穢れが強いですから、一度調査したほうがよろしいんじゃないでしょうか?」
「……誰が調査するのさ」
「そりゃまあ、屈強な戦士とか?」
あなた言ったじゃないですか、『こんな村に産まれたからこそ、屈強な戦士が育つこともある』って。
「いるんでしょ、屈強な戦士。ノンナリエ……さん、あなたもそうでしょ?」
「さっきから、いちいち間を置いて『さん』をつけなくても、呼び捨てでいいよ。めんどくさい」
「ではノン」
「いやちゃんとナリエまで言いな。いつから愛称で呼ぶ仲になったんだい」
「あ、やっぱり愛称はノン、なんですね。可愛い」
「そういうあんたの愛称はメリメリかい」
「そんな破壊音みたいな愛称ではありません」
「じゃあ、メ」
「悪いことした時に怒られる子供!」
意外とノリがいいのね、と笑ってしまったら、ノンナリエも笑う。まあねえ、色々思うところある相手ではあるものの、ずっと一緒にいるのにピンと張り詰めた関係ってのは疲れるものだ。
「あんたはやっぱり変わり者だねえ」
「ノンも大概ですよ」
「だから愛称で呼ぶなっての」
言って、ノンナリエはまた笑った。
「で、屈強な戦士は?」
「忘れてなかったか。……あんまり気は進まないが、しょうがない。でも私もあっちの森には詳しくないんだよ。薬草取りに行く連中が詳しいだろうから、次連中が行くときに同行させてもらうよう交渉してみるよ」
「お願いします」
「言っておくが、自分の身は自分で守りなよ」
それがこの村の鉄則だと彼女は言う。
「私、光魔法使えますから」
「知ってるよ」
言ってまたノンは笑ってどこぞへと行った。
「なあなあ」
食べながら、私達の様子を見ていたゼンが声をかけてきた。というか、また髪を引っ張ってきた。
「だから髪を引っ張らないで、痛いし」
私の抗議などどこ吹く風、気にすること無くゼンは言う。
「メリッサとノンナリエ、仲良しだったんだなあ」
「……それ、ノンには言わないほうがいいよ」
多分ゲンコツが落ちてくるから。
想像して、私は苦笑を浮かべるしかない。
さて、この村を良くして気持ちよく自分の国に帰ろう作戦、無事にうまくいくかな?




