46、彼女の知らぬところで男同士の火花が散る!? ※アーサー視点
「ノンナリエ……」
クラウド公爵が頭を抱える。
「ノンナリエかあ……」
ラウルド伯爵が苦笑を浮かべる。
メリッサの誘拐犯が判明したのは良いけれど、犯人はやっぱりと言うべきなのか。俺を誘拐した連中と同一犯だったわけだ。
「僕の誘拐に関する黒幕と、同じ黒幕が裏にいるんでしゅか?」問えば、違うとラウルド父ちゃんは首を横に振った。
「今回の誘拐の情報は、確かにアーサーの誘拐黒幕をたどるとこから始めた。で、とある貴族であることはすぐに分かったんだよ」
それはクラウド公爵……というよりも、このフォンディス公爵家を敵視している人物であった。そこに到達するのは容易であったと言うのだから、やはりこの兄弟は優秀だ。
「ただ、その貴族はアーサー誘拐の罪は認めたが、メリッサに関しては一切知らないと言った。そしてそこに嘘がないことは、裏がとれている」
どうやって真偽の裏をとったのと聞きたいところだが、そこは1才児は知らないほうが良い大人の世界の話だろう。聞かないでおく。
雇い主がわかればノンナリエ達をたどるのは早い。観念した俺の誘拐黒幕貴族は、ノンナリエに関する情報をすんなり吐いた。すぐにアジトに兵を派遣したが、しかしすでにそこはもぬけの殻。まあずっと同じアジトにいるような間抜けではないだろうな、あの女は。
しかしノンナリエという女、随分手広く仕事をしていたらしく、彼女を知る者は貴族社会には大勢いる。そこから彼女の動きを見出すことは、有能兄弟には造作もないことだったらしい。
そして見つけたノンナリエ……というより、ノンナリエの動向が分かったというべきか。
ノンナリエがはたしてメリッサ誘拐に関与しているのかどうか、まずはそれの判明を……する必要もなかったらしい。
「ノンナリエを知る者が、彼女の馬車が国境付近を走っているのを見たらしい」
その中に、メリッサがいることは十中八九間違いないとのこと。
「でも誰も馬車の中を確認ちてないんでちょ? 違ったらどうしゅるの?」
「その時はその時だ。少なくとも誘拐している時点で、すぐに殺すようなことはないだろうからな」
そうかもしれないけど、さらってから殺すというのもあるではないか。
不安に顔を曇らせていると、ポンと頭に大きくて温かな手が乗せられた。ラウルド父ちゃんだ。
「メリッサ様を殺す理由がそもそも無い。彼女をさらうということは……まあ、おそらくは彼女がもつ光魔法のせいだろうな」
既にメリッサの光魔法については、ラウルド父ちゃんにクラウド伯父上から説明がなされている。最初は驚いた父ちゃんも、すぐに険しい顔つきとなったことは、記憶に新しい。
早くメリッサを救出しなければ、厄介になると思ったのだろう。
「安心しろ、アーサー。僕も、そして兄上も強い。情報収集も早かったろう? すぐにメリッサ様を助け出すさ」
そう言って俺を安心させるように、二カッと笑うラウルド父ちゃん。実にいい男だ。
母ちゃんはどうしてこんなイケメンを捨てたのだろうか。まあ昔から惚れてた男がいたってんなら、それは仕方ないことなのかもしれないが。
「ねえ父ちゃま」
「うん、なんだい?」
「無事にメリッサママを助け出せたら、メリッサママと再婚しまちぇんか?」
「うんアーサー、命が惜しいなら、あんまそういう冗談言わないほうがいいよ?」
ピシッと空気が凍り、明らかなる殺気を放つ伯父上に、ラウルド父ちゃんは顔を引きつらせるのであった。
冗談ではなく本気だなんて言おうものなら、あの公爵はマジで実の弟でも手にかけるかもしれないな。
となればだ。
(大きくなったらメリッサと結婚するんだ! という子供特権の宣言も……しないほうがいいんだろうなあ)
俺も命は惜しいんでね。
半分冗談半分本気で思いつつ、内心苦笑する。




