表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/63

45、時が遡ること数日前、公爵家はバタバタしているでしゅ ※アーサー視点

 

「パパしゃん、まだでしゅかー!」


 舌足らずでうまく話せぬこの身が憎い。そのせいで、ちっとも俺の緊迫感が伝わらないときてる。


「アーサーちょっと待ってくれ、パパは今、色々と情報収集しているんだよ!」

「ちょっとっていつまででちゅか! それ何度も聞いたでしゅよ!?」


 ええい。ちゅ、とか、しゅ、とか……なんか狙ってるあざといガキんちょみたいで嫌だ! 思うように話せないのが歯がゆい!

 でもこの話し方、女性陣にはウケがいいらしく、「あらあらアーサー様、お父様達は頑張っていらっしゃるんですよ~。ちょっと待ちましょうねえ、ほらほら美味しいお菓子がありますよ~」と、メイドさんが甘やかしてくれる。うむ、役得。


 ……などと鼻の下を伸ばしている場合ではない!


「伯父上のほうはどうでちゅか?」

「俺……私のほうも着々と情報が入っている。あとはラウルドとの情報と照らし合わせて、整合性をたしかめるだけだ」

「せーごーせー?」


 なんだその小難しい言葉は、光合成の一種か?

 思わず首をかしげれば、「お前、前世の記憶は18才なのであろう?」としかめた顔をクラウド伯父に向けられました。


「記憶は薄らぐものなのでしゅ」

「そうでしゅか」


 今俺の口調、うつらなかった?

 チラッと見たが、無表情の伯父上にツッコミ入れる勇気はない。なにせ相手は愛する妻を取り戻すべく、非常にシリアス状態なのだから。


「アラス、この書状を先方に届けてくれるか?」

「かしこまりました、旦那様」

「当面俺……私は執務ができなくなるだろうから、前倒しで作業しておく」

「はい」


 伯父上は普段は公爵家当主らしく『私』としているが、色々とテンパると『俺』になるらしい。平常心のように見えて、どうやら心の中ではバタバタ慌ただしいらしい。


「そんなにメリッサママは厄介な状況なんでちゅか?」

「そうでちゅ」


 今絶対に「ちゅ」って言ったよね!? ねえ誰か勇気ある人、俺の代わりにツッコミ入れて! と周囲を見回すも、誰も彼もが公爵から目をそらしており、勇気ある者はいない様子。そのわりに肩震わせて、笑うのこらえてるみたいだけどな。


 クラウド公爵は一度コホンと咳払いしてから、顔を上げた。なんとはなし耳が赤いのは、見なかったことにしておこう。


「現在真偽を捜査中だが、ラウルドが手に入れる情報もおそらくは同じだろう。メリッサは今、異国にいる」

「え、外国にいるんでしゅか!?」

「ああ。それも一日二日でたどり着けるような近隣の国ではない。おそらくメリッサは、まだ移動中だろう」

「にゃるほど」

「にゃ……?」

「んん、なるほどでしゅ」


 真似して『にゃ』とか言わんでいいです伯父上。メリッサがこの場にいたら「猫耳はどこ!?」と言い出したことだろう。


 思って、その存在の不在をとても寂しく思う。俺にとって彼女の存在は、本当に重要となっているらしい。

 母のような姉のような妹のような、友のような。つまりはかけがえのない存在ってことだ。


「待ってろ、メリッサ。必ず……助けるでちゅ」


 ええい、締まらんなあ!


 と、自分の幼さに脱力していたら、いつの間にか部屋から出ていた親父ことラウルド伯爵が「兄上!」と騒々しく飛び込んできた。


「俺のほうの情報屋と、兄上の情報、どちらも同じ結果です。そして裏もとりました。なにやら見慣れぬ国の馬車が、国境の関所を通過したとのこと。馬車の中は高貴な人物が居るとのことで、カーテンで閉ざされ中を確認した者はおりません」

「そんなことでよく通過させたな」

「手形はなんら怪しいところなく、問題なしとのことで許可したと」

「……平和ボケといったところか。まあこの数十年、あちらの国境は問題が起きてないからな」

「なんとも羨ましい話です」


 ラウルド父ちゃんがため息をつく理由は、まあ分からないでもない。自分が着任している北部のほうの国境は、隣国との睨み合いでピリピリしているもんな。かたや平和ボケした国境と、問題ありまくりの国境。


「この国って、そんなにいろんな国と隣接してるんでしゅか?」


 問えば、ラウルド父ちゃんが寄ってきて「そうだよ」と俺の顔を覗き込む。クラウド伯父と違って、ラウルドは俺のことを完全なる子供扱いだ。……まあ今更、精神年齢18才ですと言われたところで、はいそうですかとはならんのだろうな。


「この国は、大陸の中でも一番大きく、隣接する国が多い。したがって国境にある関所の数も多いんだ。僕が着任しているムッシュールディは隣国と一触即発の状況だが、そんな国境は稀だ。この国の王や周辺貴族は外交がうまくてね、大抵の隣国とはうまくやっている」

「じゃあ、国を挙げての誘拐じゃないってこと?」

「そうなるね。アーサー、キミを誘拐した連中とどこまで関係があるかは分からないが……それあはまだ調査中。でもじきに分かると思うよ」


 ラウルド父ちゃんの言葉通りに、ほどなくして誘拐犯の詳細が明らかとなる。

 伯父上と父ちゃんは、二人が優秀であることを俺に証明したのである。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ