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4、願うは子の幸せ

 

「メリッサ、キミは絶対に俺の妻で、それは永遠に変わらない事実だ。それは絶対に忘れないでくれ。俺はキミを手放すつもりはない」

「わーお、全力で愛の告白されてる気分です」

「愛の告白だ!」


 わお。

 旦那様は年上だというのに、こういうところが子供っぽくて熱くて、可愛くて……うーん、好きだなあ。

 なんてことを口にしようものなら、『ノロけてんな、早く話を進めろ』と優秀執事が屋敷破壊しちゃうから言わないけど。


「えーっと、では私に母親になれとはどういう……?」

「それはつまり、弟の子をうちの養子にして……」

「後継にすると?」

「そうだな。両親にはおって連絡するが、決定の権利は私と弟……そしてメリッサ、きみにある。メリッサ、きみはどうしたい?」

「養子云々はともかく、あんな情勢不安定で極寒の地に生後一ヶ月の子を送ることはできませんね。我が家で引き取ってから考えましょうか」

「そ、そうか。すまないな」

「いえいえ、愛しい旦那様の弟君とそのお子のことですもの。私なんかでお役に立てるなら」


 胸をドンと叩いて言えば、「メリッサぁっ!」と抱きしめられてしまった。


ダンッ!!!!


「イチャコラは後でー!」

「「はいー!!」」


 うちの執事、マジで恐いんですけど!


* * *


「兄上、義姉上、このたびはご迷惑をおかけし申し訳ありません」


 三年ぶりに会った義理の弟、ラウルド様はそう言って私達に頭を下げた。記憶にある姿より痩せたように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。


(苦労したんだろうなあ……)


 若いみそらで伯爵として忙しく働き、ようやく産まれた我が子を置いて妻が逃げる。それで大変でないはずがない。その苦労は推して知るべし。


 ゲッソリした様子のラウルド様は、それでも腕の中の存在は、それはそれは大切そうに抱いている。


「この子が?」

「はい。僕の子供です」

「そうか。話には聞いていたが、お前にそっくりだな」

「ええ」


 ラウルド様の腕の中では、小さな赤子が、安心しきった様子でスヤスヤと眠っている。その髪は、見事な緑。ラウルド様と寸分たがわぬ同じ色だ。それこそが、その子がラウルド様のまぎれもない実子であることを証明している。


「名は?」

「それがまだ……忙しくて……もしよろしければ兄上達で決めていただけませんか?」

「いいのか?」

「はい。そのほうが、僕としても未練なく出向できます」

「そうか。なら決まり次第、文で知らせよう」

「お願いします」


 頷いたラウルド様が、私を見た。そして腕の中の赤ん坊を差し出す。


「えっと……」

「どうか、この子のことをよろしくお願いします、義姉上」

「ラウルド様、私のことは名前で呼んでもらっていいと何度も……」


 彼は22歳で、私は18歳。年上に姉と呼ばれることに抵抗を感じて、名前で良いと三年前に言った。だが彼はそれでも私のことを姉と呼ぶ。それはけして引けないラインなのだろう。


 ラウルド様は無言で首を横に振り、もう一度私に赤ん坊を差し出す。私はおずおずとその子を手にとった。


「可愛い……いい匂い。弟たちのことを思い出しますわ」


 私には実家に残した弟が三人もいる。みなすくすく育っているが、一番下の弟が赤ん坊だった頃は、いまだ記憶に鮮明に残っている。


 赤ん坊特有の、甘い香りに目を細めた。


「大切に……愛情もって育てます」

「宜しくお願いいたします」


 そう言って、ラウルド様は慌ただしく出立した。彼がいつ戻ってくるのかはわからない。

 早くても五年は無理との話だが、へたをすれば永住なんてことも……。


「情勢が改善されれば、一時的でも帰ってこれるさ。もしくは落ち着いたら、こちらから出向くこともできる」


 心配する私の気持ちを思いやってか、旦那様が優しく声をかけてくださった。

 それはけしてわからない未来。誰にも見えない未来。


 それでも。


 私は腕の中でスヤスヤと眠る赤子を見て思う。


「この子の未来が、幸せに満ち溢れていますように……」


 それこそを願う。


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