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33、寝物語7~民と家族とお金(ゲフンゲフン)のためならば、この身を捧げましょう!

 

「お相手はフォンディス公爵様だ」

「公爵ぅ? そんな上位貴族が、どうしてうちなんかに?」

「さあ? そのへんの理由は会って話すと言われたので、私も知らないんだよ」


 会って話す、それはつまり会うことが前提ってことですね。

 正直めんどくさいと思う。でもそれで終わって良い相手ではない。


 ただ、私はあくまで『お見合いをする』と言っただけ。話を受けるとは言ってないのだ。会ってから考えるのも有りということよね。


「ちなみに、結婚……婚約を了承した場合、我が家にとってのメリットは?」

「そりゃもちろん、多額の援助、だね」


 言って父が苦笑する。あまりこういう話はしたくないのだろう。

 援助と言えば聞こえは良いが、つまるところ金で買われるということ。そんな結婚に幸せを望むのは厳しい。

 そうと分かっているからこそ、父としても強く推せないのだ。


(家族のために娘を犠牲にすることを、よくは思ってないのでしょうね)


 おそらく、父はまだこの話を母にはしていない。話せば母が烈火のごとく怒り狂うのが分かるから。


 両親は大恋愛の末に結婚した。子爵の父と庶民の母、障害はゼロとは言えなかったが、それでも低位貴族ゆえにそう苦労なく結婚できたと聞く。


 そんな両親が愛してやまない子供たち……の一人であり、唯一の娘である私のことを大切に思っていないわけがない。それは注がれる愛情でもって、身を持ってしっている。


(それでも、領地……と我が家の経済状況を考えれば、気持ちが揺らぐんだろうなあ)


 チラリと視線を落とせば、父の服にツギハギが見える。

 私の服だってそうだし、母も弟たち三人も漏れなく全員服はみすぼらしい。食事内容も質素で、毎日食べられるだけで感謝の日々だ。


 援助は喉から手が出るほど欲しい。

 けれど娘に不幸な結婚は強いたくない。


 結論が出せない父は、私に決めさせる方法をとった。


 ここで私も『家族のためなら!』とすんなり身を差し出せるような献身的な娘だったならば、面倒はなかっただろう。

 でも残念ながら、私は家族を愛しているが自分を犠牲にはしたくないという、実に身勝手な娘なのだ。ごめん。


 だからお見合いはするが、受けるとは言えない。

 それでも……


「わかりました。お見合いはすると申しましたから、一度お会いしたく思います。いつです?」


 そう言った私に、父が明らかに安堵した表情をすることを私は見逃さなかった。


「あ、ちなみに」


 言葉を続けたら、一瞬不安そうな顔をする父。やっぱりやめたと言い出すのかなと身構える父に、私は聞いた。


「その援助額って、月にどれくらいなんですか?」


 直接的な私の問いに、複雑な顔をする父ではあったが、答えは与えてくれた。

 そして聞いたその額に、私は思わず「マジですか、この縁談受ける一択じゃないですか!」と言ってしまった。


 いやもう、それくらい凄い額だったんだもの。


「でもまあ、一度会ってから……」


 いきなり食い気味になった私に、父のほうが冷静にと言ってきた。だがもう私の腹は決まったも同然。


「お父様、領内の土地をもっと耕して農地を増やしたいとおっしゃってたではありませんか」

「そりゃまあ言ってたけど……」

「そのための治水工事が莫大な資金を要するとして、その時点で計画は頓挫。相変わらず民は痩せこけたわずかな土地で細々と生活する始末。そのことに誰より胸を痛めていたのはお父様でしょう?」

「う、うんまあ……そうなんだけど……」

「ちょっと迷ってしまいましたが、その金額であるならば、私達家族も今の貧しい生活を脱することも不可能ではありません。領地が改善され繁栄すれば、新しい服も買えます。美味しいものも食べられます!」

「そ、そだね……」

「たとえ相手がブクブク太った老人であろうと、そんなお金がもらえるなら私に否やがありましょうか! よし今すぐ嫁ぎましょう、すぐに嫁ぎましょう、いざロリコン男の元へ!」

「まってメリッサちゃん、落ち着いてー!」


 なんか興奮してきた! すみませんね、守銭奴で。でもこの世界、お金は大事。私の結婚一つで領地が家族の生活が良くなるならば、なにを迷う必要があるというのか。


「……どうしてお相手がロリコンになるんだい?」

「だって、公爵様なのでしょう? 詳しくないからどんな方か知りませんが、既に家督を継いでいるとなると結構な年齢のかたと想像できます。というか、もしや奥方を亡くされたかた? まあどちらにしろ14の小娘と結婚したいなんてロリコン以外無いかと」


 私の名(?)推理に苦い笑みを浮かべた父は、「ちょっと誤解を招いたようだね」と言った。


「誤解?」

「お相手はクラウド・フォンディス公爵。家督を継いだばかりで、21歳の青年だよ」

「やっぱりオジサンじゃないですか」

「14歳にとって21歳はオジサンなの?」

「そりゃそうでしょ」


 私が頷くのを見て、父は軽くショックを受けたらしい。

 それから「じゃあ私は……もうオジイチャンなの?」と涙ながらに聞かれました。知らんがな。


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