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17、脱出計画は完璧なのだ ※アーサー視点※

 

 ガタンと音がして揺れ、馬車が止まるのを感じた。どうやら目的地に着いたようだ。


 顔はよく分からないが、目元だけ見える黒装束にマスクの男が俺を見る。俺はキョトンとした顔で『なんにも分かりましぇーん』という風を装った。


 そんな俺を男は武骨な手でもって抱き上げる。ああいやだ、抱っこは女性にして欲しい。

 なんてこと言えるわけもなく、俺は仕方なくそれを受け入れた。今抵抗するのはよろしくない。


 馬車の外に出ると、一軒の家……いや、屋敷と言えるレベルの、大きな建物が目の前に現れた。周囲に目をやるも、荒野の一軒家というか、ポツンとなんとも寂しく佇んでいる。


(大声を出しても、救いを求めるのは不可能か)


 これが街中とかだったら、たとえ夜中であったとしても警らの者がいるだろう。

 しかしポツンと一軒家ともなれば、それを期待することは無理ってもんだ。


 何もない土地に一軒家。しかしその建物はそこそこな大きさで立派。

 とくれば、黒装束の連中の主人は、十中八九貴族だろう。


(あ~あ、せっかくの優雅で怠惰な転生生活が……)


 高校卒業後、浪人生していた俺の前世は、そんなに悪いものではなかった。

 普通のサラリーマンの親父にパート主婦な母。姉……はちょっと弟をこき使うやつだったが、幼い頃はよく面倒みてくれたものだ。

 平凡な家庭、平凡な日常、それこそが幸せだったと今は思う。


 あの人達のことを思い出すこともある。だが徐々に記憶はぼやけて、今ではもう顔を思い出すこともできない。

 ただ、もしかしたら俺の死を嘆いているかもしれない家族に、一つだけ伝えたいと思った。


 俺は今、とても幸せに暮らしているよ、と。

 だからもう、俺のことは忘れてくれ、と。


 無理なんだけどさ。


 今の俺にできることは、全力で新しい人生を謳歌することだ。


 なのにだ、なぜめでたく1歳になったところで誘拐されにゃならんの。公爵邸の警備、ザルだな。

 おそらくは俺を公爵家の関係者と理解したうえで、今回の犯行に及んだと思われる。


 でもって、だ。


(今日、誕生日パーティーが開かれることを、知ってた……?)


 それは偶然と呼ぶには、あまりにできすぎている。

 察するに、どこからかパーティーの話を耳にした輩であろう。

 となれば、さすがに異国の関係ではないと思う。知らんけど。まあ多分、そうだと思う。


 公爵家がどれほどの力を持ってるのかとか、貴族の中でどれくらいの位置にあるのかも知らん。

 あの恐い伯父が、どういった仕事をしてるのかもな~んも知らん。


 だから、誰がなんのために俺をさらったのか、まったくもって分からない。


 となればだ、あの伯父やメリッサ、それから俺の父親と。

 あの人達が犯人をつきとめるには時間がかかるのではなかろうか。


 いや、俺が知らないだけで、俺を狙う犯人に目星がついてるのかもしれんけど。


 ただ、あまり期待しないほうがいいだろうと思う。


 ではどうすべきか?

 答えは簡単、自力で逃げ出す、これ一択。


 作戦はこうだ。


 まず黒装束のやつが俺を屋敷の中にいるであろう主人の元へ連れて行く。

 俺はその主人の前では大人しい子供を演じる。

 油断してきたところで、眠いとぐずる。そしたらおそらくは別室に連れてかれて眠っとけとなる。

 ま、放置プレイになることは確実だわな。

 一人になったところで、風魔法で飛んで窓から逃げる。


 以上。


 なんと完璧な作戦か! 俺様天才!


 こんなことできる1歳児が他にいるか? いやいないだろう。

 いやあ、俺様が大魔法使いになる未来も、そう遠くないんじゃない?


 なんて、男の腕の中で考えながらニヤニヤしていることを、連中は気付きもしない。

 なんの疑いもなくスタスタと屋敷内へと入って行った。よし、このまま黒幕とご対面だ!


 伯父達に真犯人を教えるべく、その顔の特徴をジックリ見ておかないとな。


 自力で脱出して、犯人まで突き止めちゃったと知ったら……あの伯父もさすがに頭が上がらんだろう。待遇改善されちゃったり?


 ふっふっふ……と、密かに笑っていたら、とある部屋の前で男が止まった。コンコンとノックするなんて、随分と紳士だな。


 なんて思っていたら「なんだ」と声が聞こえた。


「連れてまいりました」男が答える。直後、「入れ」と返事があって、男が扉に手をかけた。


 おいおい、ちょっと待て。

 俺は確かに願ったぞ。不謹慎な事を願っちゃったのは本当だ。

 でもそれが現実になるなんて、誰が思う?


 ギイイ……と開いた扉の向こう。


 銀髪の美しいお姉様を認めた瞬間。


(よっしゃあ、美人きたー!!!!)


 と思ったのは内緒だ。

 

 

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