14、旦那様の秘密
クラウド様とラウルド様、外見乳児中身18歳のアーサー、そして私。
4人でのお茶会が始まった。つっても、私とアーサーは美味しいお菓子(優秀なメイドは離乳食タイプのお菓子を用意してくれたのだ)を食べるのに夢中。対して久しぶりの再会だってのに、兄弟は全然会話もない。
しかしあまりに無言なのもどうかと思ったのか、旦那様から会話を切り出した。
「ラウルド、向こうでの生活には慣れたか?」
「そうですね、まだ寒さには慣れませんが、屋内では気になりません。そうそう、食事は大層美味しいんですよ。今回は忙しくて買う間がなかったのですが、今度美味しいお菓子を買ってきますね」
「「お菓子!」」
お菓子という言葉に目をキラキラさせるのは、クラウド様ではない。もちろん私とアーサーだ。1歳未満の乳児と一緒に目を輝かせても恥ずかしいと思わない、それが私。先日19歳になりましてよ!
「そうか、義姉上は19歳になられたんですね。すみません、お祝いを何もできず……」
「いいんですよ、ラウルド様。旦那様からこれでもかってくらいにプレゼント貰いましたから」
初夏の誕生日には、私の部屋を埋め尽くす服が届いたっけ。全部着尽くすのにどれだけかかるんだって量。
あとは可愛い花束にお菓子。
花より団子、私が一番喜んだのはもちろんお菓子だ。
「それから、観劇デートしました」
「へえ、兄上がねえ……」
私が言えば、面白そうに笑うラウルド様。
「そういったことに全く興味のない人でしたのに、いや愛する人ができると変わるものですねえ」
「ラウルドうるさい。今すぐ極寒の地に帰るか?」
「冗談ですよ、恐いなあ」
旦那様に対してそんな冗談が言えるのは、ラウルド様くらいだ。
クスクス笑う彼に、クラウド様はムスッとした表情をする。耳が赤くなっているのが見えてますよ。
そんなほのぼのした空気が流れる中、切り裂く一言が出るのは直後のこと。
「なあなあ」
それは可愛いぷにぷにホッペに、クリームをべったりつけた精神年齢18歳の乳児による発言。
みながなんだと注目する中で、アーサーは聞いたのだ。
「なんでそんなにラブラブなのに、伯父上とメリッサは子供作らないんだ?」と。
子供というより、無知ゆえの無邪気な質問。
途端、空気にビシッとヒビが入ったことを、無知なその子は気づかない。
う~ん、これはデリケートな質問。
立派な大人ならば、そう簡単に質問してはいけないものだと理解しているだろう。
だが前世18歳で時が止まった彼は、そういったことを理解する経験をしなかったのか。
それとも単純に無神経なのか。
とりあえず「アーサーは女性にモテないでしょうね」と言っておこう。
「なんで!? 俺は将来大魔法使いになってモテモテになる予定だぞ!?」
「予定は未定と申しまして……」
「子供の夢をへし折るな!」
「精神年齢18歳が何を言いますか」
「俺より幼い精神年齢が何を言う」
なんてやり取りをしていたら、そのうちアーサーは自分の質問も忘れてまたお菓子に夢中になった。
良かった、精神年齢18歳でも、肉体年齢の幼さが勝ったみたい。子供は言ったことをすぐに忘れるからね。
チラリと見れば、クラウド様は黙々と紅茶を口にしている。
ラウルド様は、私と同じくクラウド様をチラチラ見てから……私を見た。
その目は『言ってないんですか?』と聞いてくるようだ。
まあ別に隠すことではない。でもわざわざ言うことでもないと思うのよねえ。なにせ一応相手は1歳にも満たない乳児。精神年齢18歳の『彼』も異世界から来ているから、説明したところでどこまで理解できるやら……。
とりあえず、簡単に説明しておこう。
「アーサー」
「ん?」
「簡潔に言っておくけれど……旦那様は狼になるのよ」
「……」
さて、これで説明は終わった。やれやれ、それじゃあ次はミルフィーユでも……と手を伸ばす私の耳に、アーサーの呟きが届く。
「つまり男はみんな狼ってことか。伯父上って、ひょっとして見かけによらず結構なエロ親父で、メリッサに嫌われてる? もしやムッツリスケ……」
ダンッ!!!!
とんでもないことを言いかけたアーサー。
だが、テーブルに刺さったフォークを見て、「バブウ!」と嘘くさく言って、またお菓子を食べ始めるのであった。
そんな二人を見て、ラウルド様が「息子の命、いつまでもつだろ……」と半分本気で言ってるのが聞こえて苦笑するしかないわ。