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48話 武辺者、盗賊討伐をする

 風が乾く。朝の空気が刺すように冷えてきた。

 キュリクスにも、冬の気配がはっきりとわかる範囲で忍び寄っていた。


 この日は定例会議――「評定」の日だった。

 寒がりのヴァルトアは執務室の暖炉にぽんぽん薪をくべ、メイド長オリゴが「もったいないです」とたしなめる。文官長トマファは書類整理に追われている。武官長スルホンもすでに地図を広げいた。


 クラーレとウタリの姿はない。二人は現在、領外視察と訓練兵の夜間指導に出ており不在だ。メリーナ教官は訓練場で訓示中――のはずだ。ユリカはギルド婦人会のお茶会に出かけている。


「ヴァルトア様、これ以上薪を使うと暑くなりすぎますよ」


「だって今日寒くね?」


「それ以上ぽんぽん放り込むなら、今後、薪の用意は自分でなさってください!」


 ヴァルトアはむぅと言って立ち上がると暖炉を背に立った。本当に寒がりな彼は暖炉前に椅子を持ってきて火に当たりながら評定を開きたいと思うほどである。かといって薪の準備は面倒くさい。だが寒い。――それならもう少し厚着をすべきなのでは、皆がそう思うほどに薄着である。まるで『部屋を死ぬほど暖めるけど自身は薄着』という北方民のそれである。

※作者註・1



「――ところでオリゴ、その一番上の封、代官印があるな。なにかあったか?」


「あ、はい。ビスカス村より緊急の報告です。トマファ殿、読み上げてください」


 黒服のメイド長が無言で一通の文を差し出すとトマファがそれを受け取って即座に開封する。


「――盗難報告です。村の麦、干し肉、衣類、それと……鍋、桶、たらい……?」


「たらい?」


 ヴァルトアだけでなくオリゴも僅かに顔をしかめた。


「鶏などの家禽が一部消えており、夜間に物音や不審な“呻き声”、それに“光る目”を見たという証言も。被疑者特定は難しい、とのことです」


「怪談じみた報告だな…」とヴァルトアが薪をくべる手を止めた。


「“太鼓のような音”がしたという証言もあります」とトマファが補足する。


 その瞬間、テーブルの上で地図を広げていた人物がいた。

 武官長スルホンである。


「――うむ、補給線だな」


「は?」


 全員が顔を向けた。


「麦、衣類、調理器具……つまり兵站物資が狙われている。計画的な略奪だ!」


 スルホンは広げられた地図に何本かの赤線を引き、顎に手を当てて唸る。


「標的のビスカス村は森に囲まれ、北には峠。敵の潜伏には十分な環境……ふむ、作戦名は“タライ・ストーム”だ」


「えっ」とトマファ。


「D-2ゾーンを臨時封鎖対象とし、先行偵察部隊を……」


「いやちょっと待ってください、なんですかその『D-2』ってホームセンターみたいな名前」

「トマファ殿、いまカ●マもホ●マックもケイヨ●もDCMになったわよ」


「敵は物資狙いとみせかけた陽動だ。“鍋とたらい”を奪ったのも、我々の目を欺くためのカモフラージュと見て間違いない!」


「いや、なんの陽動作戦なんですか!?」


 オリゴが咳払いするように小声で付け加えた。


「……代官報告によれば、現地には“二足歩行ではない足跡”が残されていたと」


「それもフェイクだ!」


「フェイク?」


「四足歩行の訓練を受けた兵の可能性がある。闇夜での行軍に慣れた獣型ゲリラ部隊……そう、旧王都崩壊時に消息を絶った“白猿傭兵団”の残党かもしれんぞ!」


 ヴァルトアがゆっくりと椅子に座る。暖炉の火が強くなって熱くなり過ぎた為だろう。


「……俺はそろそろ笑っていいか?」


「もう少しだけ我慢してください――笑ったら尻バットです」と冷静なトマファ。


「敵の目的はこの領地の士気低下だ。ここで軍が動かなければ、次に狙われるのは……民だ!」


「民はもう鍋とたらい盗られてます」


 それでもスルホンは拳を握り、目をぎらつかせていた。


「冒険者ギルドに依頼を出すべきでは?」とオリゴが提案するも、


「それはダメだ。民間に警備を任せるのは領主の沽券にかかわる。ここは――正規兵のみで撃退する!」




 かつて統一戦争の末期、山岳地帯で一時的に名を馳せた部隊があった。

 その名も「白猿傭兵団」――後世の軍記物『陥れの記』『雪戦抄』などに登場するゲリラ部隊である。

 白猿の毛皮をまとい、峠を越え、夜陰に乗じて補給を断つ。その戦術は鮮やかで、伝説の域に達した――という“ことになっている”。


 実際のところ、ただの猟師や元脱走兵の寄せ集め部隊であり、装束も白くなどなかった。だが軍記物の誇張と時代のロマンが合わさり、「白猿」は兵の中で語られる一種の怪談めいた存在となった。


 そしてスルホンは――それを完全に信じていた。

 オバケや妖怪が大嫌いな彼は、「人語を話す亡霊よりは、白猿傭兵団の残党の方がまだマシ」と真顔で言う。それも『人は斬れるが亡霊は斬れんからな』と。そのために領主館の中ではかなり熱心な聖心教徒である。そう。亡霊は教義では信じてない、だけどいる! と。そして、村の鍋とたらいが消えた報告を受けて、即座に彼の中で戦術的攪乱=白猿再臨が結びついたのだった。


 そのとき執務室にいた者は、誰ひとりとして止められなかった。  正確には、あまりの真剣さに――ただポカンとしていた。なおスルホンの酷い一人語りのせいでその日のうちに結論が出なかった。他に決めなきゃいけないことはスルホン抜きで決め、彼一人でぶつぶつと白猿との対峙、ビスカス村対策を考える事態となった。


 *


 翌朝。

 領主執務室には、主だったメンバーが集まっていた。もちろんスルホンに呼び出されたのだ。

 そしてスルホンは一人で巨大な地図を広げ、朝から異様な熱量で兵科記号を模した駒を並べて布陣を組んでいる。


「というわけで、敵は鍋型陽動と見せかけた戦術派ゲリラだ!」


 誰も頼んでいないのに再び始まったスルホンの演説に、トマファは書記のペンを完全に、投げた。ウタリに至っては被っていた帽子で顔を覆うようにした、――寝る気だ。ユリカに至っては鈎針を取り出して何かを編み始める。


「……スルホンさん、それ“鍋を囮にした攪乱戦術”ってことですか?」


 クラーレがペンを握って筆記するふりをする。誰かがノッてあげないとあとあと不貞腐れてでもしたら困るからだ。昨日はトマファが担当したから今日はクラーレ。――もし明日があったならレオナが担当するのだろう。


「そうだ、さすが軍属経験者のクラーレ殿だ! 鍋やたらいを巧みに奪い、補給線を断つ。さらに桶の反響音で味方の位置を混乱させる――まさにたらい戦術!」


 スルホンは力強く頷いた。まだたらいを引きずるのかよとヴァルトアは思った。一方、オリゴは冷静に書簡の裏をめくっていた。


「報告書には“二足歩行ではない足跡”と、“地面を這うような毛皮”が残されていたとのことですが」


「それも偽装工作だ! 四足歩行を装った陽動部隊。視覚情報を逆手に取る、訓練された獣型兵。敵は……白猿傭兵団の再来です!」


 室内の空気が凍りつく。


「……またその話ですか」とトマファが小声で呟いた。


 そこへ、訓練場からやってきたメリーナが乱入した。


「ごめーん! 遅れた! なになに? 白猿? ぶっ飛ばせばエール一杯ってほんと?」


「メリーナ姉さん、訓練兵の教育は!?」とスルホンが叫ぶが、メリーナは「アニリィちゃんに任せてきたー」と言い、ヴァルトアの私物であった靴ベラをぶんぶん振り回している。


「この靴ベラ、絶妙なバランスで振りやすいのよね〜」


「姉さんそろそろ返してくださいよ」とヴァルトアが遠慮がちに言うが、彼女の耳には届いていない。隣でオリゴがそっと呟く。


「ヴァルトア様、もう三度お願いしても返してくれそうにありませんから……そろそろ諦めては?」


 スルホンは思わず目を逸らした。あのメリーナ相手に強く出られる人間は、この部屋には一人もいない。むしろヴァルトアの家臣の中では一人もいない。


 軍政評定は開始からすでに一刻が経過していた。 当初の議題は「ビスカス村への盗難対応」だったはずだが、今や鍋と白猿と靴ベラの話題で混迷している。


 スルホンはついに拳を握りしめて立ち上がった。


「よろしい。ならば我が直卒部隊を動かし、タライ・ストームの名のもと――」


「ちょっと待ってください」と、トマファが遮った。


「そもそもスルホン殿の直卒部隊、いま演習中で出払ってますよね?  それに、現地指揮ってつまり……ご自身が出るつもりですよね?」


 一瞬、室内が静まり返る。


 ヴァルトアは湯気の立つ紅茶を見つめたまま動かず、オリゴはそっと読んでいた娯楽本に栞を挟んだ。


「じゃあ、指揮官は公平に、じゃんけんで決めましょうか。現在不在のアニリィ様の代わりに僕がじゃんけんに参加しますから」


 沈黙がさらに数秒伸びたあと。


 オリゴが紅茶をひとくち啜りながら、ぽつりと呟く。


「――もうそれでいいんじゃない?」


 *


 スルホンの「白猿騒動」の翌日。


 領主館近くの練兵場。

 太陽が冬空に輝き街を暖める中、訓練服に着替えたジュリアとパウラが立たされていた。

『斥候用の七つ道具持って来てね』とだけ言われたので、二人はてっきり訓練だと思い込んでいた。


 そこへ現れたのは呼び出した本人、メリーナ小隊長。――今は斥候隊の隊長というべきか――相変わらず愛用の靴べらを肩に担ぎ、口調は軽い。色々とぶっとんだ人だが実は領主館の中でトマファの次に働いている人だ。教育訓練隊を指揮指導し、斥候隊の勤務割を作ち、夜にはクイラへのセンヴェリア語指導をし、夜中は『当直』と書かれた腕章をしてキュリクスの繁華街を巡回してるのだから。ちなみにアニリィほどではないが酒好きである。


「はーい、ジュリアちゃん、パウラちゃん。おはよーっ」


 もうじき昼だというのに妙に上機嫌な声が響く。二人はいつものことだから気にしていない。


「えー、二人とも聖夜休暇しっかり出てたけど〜、それなら時間外労働でちょこーっとお返ししてもらおっかなーって!」


 ジュリアは露骨に顔をしかめた。


「ちょっ、えっ、待ってください教官、それってパワハラっすよね?」


「いやいやいや! むしろ聖夜を愉しむ資金を稼がせてやろうって親心だよ? しかもアルカ島でのやらかしも取り戻したいでしょ? だから今回ちょっと斥候して、盗賊いたらピピーッて知らせるだけの簡単なお仕事! ってことで今から一泊二日の予定で、いってらっしゃい!」


 メリーナは親指で遠くの林を指さすと、涼しい顔で言い放った。なおビスカス村の方向は反対側だ。ジュリアは口をパクパクさせて抗議の言葉を探していたが、その横でパウラは「ハイッ!」と言うと荷物を背負っていた。


「ほら、パウラちゃん見て? ね? 冷静。美しい。仕事モード。はい解散〜!」


 そして帰り際、メリーナは軽やかに歌い始めた。


「他にも紹介できる仕事、あるよ? それが良いなら斥候業務が終わったらおいで〜♪ バニーラバニラバーニラ求人〜♪」


 軽やかで耳に残るリズムながら、子供が歌うと何故か親が血相変えて叱りだす謎の歌を口ずさむメリーナ。足取り軽く退場していくその背中を見送りながら、ジュリアが恐る恐る口を開いた。


「――っ、今のなに? 求人? 何を紹介されるんですか――?」


 パウラは淡々と答えた。


「ろくな仕事じゃないと思う」

(作者註・2)



 ビスカス村まで二輪馬車で4時間。

 代官宅には連絡がいってたみたいで、二人が訪れると馬車を預かってくれた。


 二人は小道を抜け、岩場の影に身を隠す。聞こえるのは風の音と鳥の羽ばたき、そして冬の息吹。周囲は静かだ。静かすぎる。


「――ねぇパウラ先輩」


 ジュリアが囁くように口を開いた。


「あの、もしこのまま盗賊に見つかってさ――あたし捕まったら、どうなると思う?」


 パウラは望遠筒をのぞいたまま応えない。ジュリアは勝手に続ける。


「地下牢に放り込まれて……軍服びりびりにされて……たわわな私の身体目当ての男たちが、じわじわと――」


「たわわ、とは?」


「少しはありますから!? 人並みに、いや、やや小粒系たわわ!」


 ジュリアは顔を真っ赤にして、小声で力説する。


「とにかく! やられたらどうするんですか!? あたし、結婚とかしたいんですよ!? 白ドレス着たいんですよ!? 純潔的にセーフでいたいんですよ! 何かあったら先輩、責任取って下さいよね!?」


「分かった、取る」


「でも捕まったら荒縄で縛られて『兵糧の隠し場所を吐け!』って言われながら鞭で叩かれロウソクで炙られるんですよ!?」


「私が盗賊ならもっと効率よく拷問する。生爪剥がすとか」


「怖っ! 超リアルすぎてドン引き! 私、こわいんですよ? わかります!?」


「じゃあ、やられる前にやる。――以上」


 即答だった。冷酷とも言えるほど淡々と。


「怖っ! やっぱパウラ先輩って強いですよね!」


 ジュリアはぷるぷる震えながら、望遠筒で監視するパウラを護衛する。一方、パウラはすでに視線を前方の洞窟入り口へ移していた。


「てか、パウラ先輩、本当に責任取ってくれるんですかぁ!?」


「に、任務中ッ」


 パウラが顔を赤らめる。声がわずかに上ずったような気がして、ジュリアがにやっと笑った。


「うわ、ちょっと動揺してる? 今、動揺しましたよね? もしかして、もしかしなくてもそういうタイプですか!?」


「うるさい。黙れ。声がでかい」


「照れてるぅ〜!」


 パウラは深くフードをかぶり、前方の崖を無言で指さした。


「……あそこが巣だと思う。――調べる、来い」


「なんか話題そらしたー! 絶対そらしたー!」


 崖沿いの獣道を進むこと十五分。地形のくぼみを利用した半洞窟のような陰に、パウラが立ち止まった。


「やはりここ、匂う」


「わ、わかんないけど言い方怖い! なに? なにが匂うんです!?」


 パウラは静かに指を差す。洞の奥には袋に包まれた衣類、かすかに干し麦の香りが漂っていた。パウラはメイスに持ち替え、右手は腰の短剣に添える。ジュリアはダガーを抜くとパウラの背を守る。そしてさらに奥へ踏み込んだパウラは、小さく舌打ちした。


「盗難物。間違いない。まだ新しい」


 鍋、たらい、桶、干し肉……ビスカス村からの報告と一致する品々が、粗雑な藁の上に山積みになっていた。


「現状確認できた。ここから離脱!」


「はいッ!」


 二人はビスカス村に戻ると二輪馬車を駆って領主館へ戻り、そしてメリーナに拠点発見の報を伝えた。



 *


 

 スルホンは机の上に地図を広げ、真剣な表情で線を引き始めた。


「これより、作戦名“タライ・ストーム”第二段階を発動する!」


 一兵士であるパウラとジュリアも『社会科見学だから』とメリーナに言われて緊急評定に参加させられたのだが、スルホンのあまりの表情を見て互いに顔を見合わせる。トマファが眉をひそめて訊いた。


「第二段階……あるんですか?」


「第一段階は情報収集だった。次は威力偵察――いや、制圧だ!」


「え、初耳なんですけど……」


「敵は知恵を持ち、鍋と桶を制することで我が士気を削ろうとしている。ならば、こちらは“たらい返し”だ!」


 トマファが手帳に“たらい返し”と書きかけて、静かにペンを投げる。


 ヴァルトアはやれやれと頭をかきながら呟いた。


「……何にせよ、民の不安は放っておけないな。動かすにしても、規模を――」


「こちらが本格展開すれば、擬態を解き、奴らも正面に出てくる。必ず」


「過剰です」とオリゴがぴしゃり。


「過剰じゃあ無い! 鍋は民の魂、桶は誇り、たらいは伝統! それを守るのが軍人の義務!」


 室内が一瞬静まった。


「どこまで本気です?」とトマファ。


「この目は、本気しか映しておらん!」


「じゃあ、止めても無駄ですね」


 そのとき、扉の向こうから声が響いた。


「おっ、ついに出陣ですか!?」


 ぴょこんと顔を出したのはアニリィだった。背後にはなぜかすでに集結している軽装の兵士たち。


「みんな、もうエール飲んじゃって準備万端ですよ! ちょっとした冬のイベントって感じで!」


「イベントじゃねえ!!」


 スルホンが叫ぶが、所属も階級もバラバラな3ダースほどの兵たちが配置についていた。しかしトマファがペンを走らせる、「正規の手段により出陣」と。


 ヴァルトアが小さく肩を竦めた。


「また現場の勢いが手続きを追い越したな」


 *


「はーい、手柄が欲しい人この指とーまれ!」


 やらかしの累積が祟り一介の訓練隊付けにされた武官のアニリィ。自分のあずかり知らないところで『盗賊討伐令』が出ており、一軍を指揮しなければいけなくなった。しかし自身が預かる兵などいないため一計を案じる。


 なんと自身で飲み屋を周り、暇そうな正規兵を片っ端から集めたのだ。夜勤明けの者、休日に家に居ても居所が無く飲み屋で転がってる者、ほぼ飲み屋に住み着いてる者までだ。出兵すれば手当がでるし、手柄を上げれば金一封も出る。しかも何かと問題を起こす騒動屋。自身に火の粉が降り落ちてこなければ、見ているだけなら「おもしれー女」だ。金まで貰えてエンターテイメントを提供してくれるのなら参加しない暇人は居なかった。そのためバラバラな兵種たちがかき集めたのである。中にはオリゴが預かるメイド隊までも参加していた。


「じゃ、出陣!」

「軍政監察として僕が同行します」


 参加してたメイド隊が後にいうには『トマファ×アニリィ』も有りよね、と。いやいや、ここはプリスカで押さなきゃとか、クラーレ様との混沌NTRバトルとかと好き勝手騒いでいたという。恋愛脳もここまでくると難儀である。



 キュリクス軍による“白猿討伐作戦”は、日の出とともに開始され、昼には終わった。


 結論から言えば、捕縛された盗賊はゼロ。

 回収されたのは、洞窟に残された鍋や桶、たらい、そして大量の半分かじられた芋である。


「やはり猿だったのでは……」と誰かが呟いたが、スルホンは「それも敵の偽装工作」と断じ、作戦を『戦術的威圧による制圧成功』とヴァルトアに報告した。彼も判り切った事だが回された書類は適切に処理しないといけない。くそでかいため息を付いてから押印し、王宮へ通常郵便で報告書を送ったそうだ。



 この一件は、数日後にエラールの新聞にも掲載された。


――《田舎領、白猿討伐作戦決行! 被害ゼロで戦果報告!》

――《桶とたらいの聖戦! 猿風ゲリラを撃退!》

――《疾風迅雷のアニリィ、出兵後の打上げで飲み屋を壊す(2度目)》


 王都では失笑とともに話題となり、「姿なき猿と戦った田舎者の猿」として一部で風刺画まで描かれたという。



 だが、キュリクスでは違った。

 ビスカス村では奪われた鍋やたらいは持ち主の元に無事に戻り、老婆が嬉しそうに芋の皮をむいていた。


「たとえ猿でも、領主様が動いてくれるってのはありがたいもんさね」


 領民から年貢を預かっている以上、治安維持は大事な仕事である。そろそろキュリクスにも冬を迎えるが、ひとつだけ、あたたかくなったようなニュースであった。

ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。


現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください。




よろしくお願いします。




作者註・1

まるで『部屋を死ぬほど暖めるけど自身は薄着』という北方民のそれ


4年間を札幌で過ごしてた。北海道って土地柄なのか、生活習慣なのか、ストーブが無駄にパワフルだし燃料は自動供給。(ストーブの燃料パイプに計量器ついてて、使用に応じて「ストーブ代」が請求された)


なお「北海道人は寒さに強い」と人は言うが、そんなこと無いと思う。寒いもんは寒い。

だけど部屋はガンガンに暑くしてTシャツ短パンで過ごすのは北海道スタイル。あと、マジで寒いときは北海道人は外に出ない!



※作者註・2

バーニラバニラバーニラ♪


バニラカーではないが、広告宣伝車のバイトはオイシかった(笑)


日当いくらかで、決まったルートをちんたら走る。

しかもルートは右折が多い。理由は「対向直進車が居たら必ず停車するから」。


ちなみに僕がやったバイトで使用した車両は日野ブルーリボン(だったはず)の改造車。車内はすげぇ静か。

車外は韓流アイドルのラッピングがなされ、曲がガンガン流れてた。外に出るとすげぇ音量垂れ流しだって判るレベルでうるさいが、中はすっげぇ静か(バニラカーもそうらしい)。


詳しい話は守秘義務契約があるのであれこれ言えないが、僕はその韓流アイドルが誰かは知らない。今も日本で活動しているかすら知らない。それぐらい興味が無い。だけど女の子たちからスマホで撮られるのがすごく嫌だった。僕は運転する時ってサングラスは殆どしないが、この時だけはした。顔バレしたらお嫁に行けなくなるから(笑) バス運転士時代、バスマニアの方々がカメラを向けるのとは違う緊張感があって『すげぇ嫌』だった。


なおバイト代だけど、(当時)バス運転士時代の時間外給与より『高かった』。ウマウマだった。

なお日当1万●千円。今でもその求人があればぜひやりたいね。

ちなみに、僕が思う『一番割が良かったバイト』は、スズメバチの駆除。その次が風俗の黒服か回らない寿司屋。『割に合わないバイト』は、町内会の仕事。

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